1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
08

COLDSLEEP

まどるdが趣味でかいた小説をだらしなく垂れ流す場所


In 08 2011

Category: スポンサー広告   Tags: ---

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

 

-- -- ,--  Edit


Back to top


Category: 駄文   Tags: ---

しばらく

学外実習……企業へお手伝い兼勉強しに行くので、その間は更新できません。三週間くらいかな。っていうか、最近珍しく更新度が高かったなー。いつもどおりに戻るって感じかも。ツイッターの方は時間があれば(ネタがあれば)呟くと思いますが。

ではでは、また逢う日までー。

スポンサーサイト

Comment: 6   Trackback: 0

08 23 ,2011  Edit


Back to top


Category: 小説   Tags: ---

神々の息子達の黄昏 3

 私達はソレンチナメ諸島へと向かっていた。その理由は、今日、ここでサンカルロス要塞の襲撃を敢行するとの事だ。そのため、近くにいた私の部隊が招集されたわけだった。ソレンチナメに着くと既に戦闘が始まっていた。予定時刻よりも速い開始だ。何か、問題でもあったのだろう。私達は草陰に隠れ、作戦を考案。即座に決定し、行動を開始する。ゲリラ軍団に紛れ込み、ナポレオン率いる突撃部隊はサンカロス要塞へと近づいていく。私率いる狙撃部隊は打ち砕かれた民家を壁にして狙撃準備に取り掛かる。
銃弾の雨が降る。血潮の霧雨が戦場に降り注ぎ、地を赤く染めていく。若い命が次々と斃れていき、生き残った者が慟哭しながらトリガーを引きながら弾丸のごとく突貫していく。相棒を構えた瞬間、胸の奥が虚しさで一杯になった。
(何のために、私はここにいるんだろうな)
 私という存在の意義は、まさに今発揮されようとしている。戦いに特化した能力を持つ私がいる事による士気の高揚。戦略上の有利。勝利のための道具。
 壁から出てきた政府軍の一人の頭を撃ちぬいた。糸の切れた人形のように倒れ込み、空いた穴から血と脳漿がこぼれ出ていく。
 私もいつか、今撃ちぬいた奴みたいに斃れる時が来るのだろうか。
トリガーに指をかけ、物陰から逃げまどい出てくる人を撃ちぬいていく。声も聞こえないほどの距離。斃れる人の表情も見えない。その表情が苦悶に満ちているのか、何が起こったのか分からないといった表情なのか、やっと休めるといった表情なのか、私には想像がつかない。
やれる事を、やれ。それが私の信念だ。私の出来る事の全てのはずだ。それなのに、どうしてこうも私は人を撃つ事に抵抗を覚えるのだろう。私の存在意義が存分に発揮されるこの場所で、一体何に疑問を抱くというのだ。
私は必要とされているのだ。だからこそ、私はこうして任務に従属している。道具であるべきだ。私の意志で動けば彼らの意志に反するし、私はこの時代の人間ではないのだから、この時代にシモ・ヘイヘとして生きてはいけない。
なら、私は誰だ。私は何だ。この身体の主は何処だ。私は何故ここにいる? 私の望む事は何だ? 私のいるべき場所はどこだ?
私は何に疑問を抱く? 私がいる事は、時代にとって正しい事か? 私は考えるべきなのか? 私がここにいる事は正しい事なのか? 人工的に作り出された私がここにいる事は正しい事なのか? 
ふと、気付いた時には私は一人だった。周りにいたはずの部隊の人間が誰一人としていない。それだけじゃない。倒したはずの死体も、銃声も、怒声も、半壊した家も、相棒も、何もかもが無くなっていた。在るのは、景色のみ。
無音。荒廃した景色に佇む太陽と、風。立っている感触もなく、私はただ呆然としてその光景を眺めた。ふと、要塞の近くに一つの影が見えた。瞬間、理解した。あれはナポレオンだと。
彼の口元が動く。かなりの距離がある。だから、私には聞こえない、
「もう、時間みたいだ」
 はずなのに、彼の声は私の近くで囁いているかのように鮮明に聞こえてくる。
「何が……」
 と問う。
「お前の時間が」
「私の……?」
 彼は横に首を振り、
「『お前』の、時間さ」
 哀しげな頬笑みを携えて言った。
「『私』の、時間」
 そう、とでも言うように彼は頷いた。ふと気付くと彼はいつの間にやら私の目の前に立っていた。そして、私は彼の顔、右頬にほくろがある事に初めて気づいた。
「俺は、案内役だっただけ。お前が意志を持って動けるか、見ていた監視員さ。実験は成功したよ。もうそろそろ、『お前』の限界だから。終わらせらなきゃならない」
 私は、理由もなく納得いった。一体何に対して、納得したのかは分からないけれども。
「死ぬのか、『私』は」
 静かに彼は頷いた。
「お前は作り出された存在だ。どっかの誰かさんの欲望と希望と、混乱と困惑の中で。この俺でさえも、な。ここだけの話、この世界だってそうさ、全部、ぜーんぶ作りもん。どっかの誰かさんの記憶の一部の残りカス。歴史の一部の張りぼて。縫い合わされたお人形が俺達」
「ナポ――君は、何だい?」
「名前は無いさ。ただ在るだけ」
「俺と同じ……」
「ちっと違うな。俺はお前たちみたいに望まれて生まれた訳じゃない。ああ、名前と言えば、こう呼ばれる時がある。AIって」
 そう、彼は肩を竦めながら言った。私にはその名前の意味するところは分からなかったが、一つだけ分かった事があった。私と同じ、孤独だという事を。
「……君の言った事は本物かい?」
「何……」
「君は私にこう言ったんだ。生きている事は嬉しいけど、殺す事は悲しいって。誰かが称賛をしてくれるのは嬉しいけど、何かが違うって」
「紛いなく、本物。悪いけど、こういう体験は一度や二度じゃない。俺がこの世界の住人になって、お前たちみたいなやつらとつるんで生きるってのは。今までは俺だってそういう事に関して何の関心も持ちやしなかった。俺はただ与えられた命令をこなすだけだったさ。けど、ふと気付いた時に俺は何かを考えていた。お前らが、ただの実験体であるにもかかわらず、生きているように振る舞い、生きていたかのように死んでいく。まぁ、今までと今回の違いは、お前が懐疑を覚えた事だった。今までの奴らは全員、何も疑うことなく死んでいったよ。そうやって死んでいく奴らを見てきた俺はいつの間にか……うん、そうだ。俺も懐疑をしてたんだ。どうしてって。どうして、こんなことをしているんだろうって」
「自分の行いに?」
「いや、実験をする人間に対してさ。所詮、人間にとって俺達は兵器でしかない。だから、こうやってお前を作り出しては壊せる。それって、本当はとてつもない事なんじゃないかって」
「兄弟は、安らかに逝ったのか」
「いや、ほとんどは苦痛の中死んでった。なんせ、脳に負担がかかってたから。最終的には気が狂ったようだった。尋常じゃないんだぜ、このやり方。お前には分からないだろうし、分からなくて良い」
「私は、道具なのか」
「もちろんだ。それ以外、お前の存在の価値は無い。本来在るべき人格を破壊してお前が造られたんだから」
「……教えてくれないか。私は……この身体の主を殺したのか」
 彼は目を閉じた。それが問いに対する答え、肯定である事は一目でわかった。
「……そうか」
 ふと気付くと、目の前から彼は消え失せていた。辺りを見回してみても、荒野に風が寂しそうに歩いていくだけ。
 もう、この世界には誰もいないんだな、と思った瞬間に世界は色を失い始めた。荒廃した地は静かに音もなく、消えていく、時代の背景も、ここの臭いも、私の身体も少しずつ綺麗に真っ白になっていく。何かに溶け込んでいくような感覚に身を浸しながら、それでも私の意識は在り続けた。もう、目の前にあったはずの景色は無く、手も足も、身体さえも失って、見えるのは真っ白な闇。
 いや、違う。闇じゃない。目の前に何かの輪郭が浮かび上がってくる。チューブ、だと理解した瞬間、私は急激な眠気に襲われた。
 手足が重みを増してくる。静かに分解されていくようにして感覚が薄れていく。真っ白な景色が今、真っ暗闇に引きずり込まれようとしていた。でも、私は抗おうとは思わない。むしろ、心地良いからこのまま身を流されるがままにしたいという思いの方が強かった。
 唐突に私は理解した。私はやはり、望んでいたんだと。死ぬことを。だって、こんなにも安心感があるのだから。
 もうどうでもいいのだ。私は色んなわだかまりを捨てて眠ることが出来る。道具はやがて捨てられるべきだ。必要のないものは当然、大切なものでさえも、時間の流れとテクノロジーの発展による風化で。
 私が一体どんな実験に利用されているのかは分からない。それが幸せだとは思わない。この実験が世界に害をもたらすものなら私は死んでも死にきれない。けど、それが分からないからこそ、今の心中は穏やかなのだ。
 全部、消えていく。渦巻く暗闇の奔流が渦をなして景色をのみ込んでいき、やがて私の意識の中にも入り込んできて心を水面に浮かべる。
 全てが消える寸前に、告解とも言うべき感情が光をともした。
 もし、私も天国か地獄に行く事が出来る権利を持つなら、殺してしまった主と共に。




「サンプルD-101、機能を停止しました、博士」
「データを全てチップに」
 真っ白に統一された一つの部屋。そこには様々な機器が備え付けられていて、殺風景な光景に色を飾っている。
 博士と呼ばれた初老の男は席から立ち上がり、ガラス張りの壁へと近づき、そこから見える光景を見降ろした。眼下には広いフロアがあり、そこに、数十人の薄い青の色の患者服を着た人間が横たわっていた。全員が頭を花弁のように切り開かれ、本来頭蓋に収められているはずの脳が露わになっており、さまざまな場所に電極が貼り付けられていて、脳幹部分にジャックが差し込まれていた。
 ドアがノックされ、応答した男から相手の素性を明らかにされた博士は静かに頷いた。ドアが粒子状に消え、半透明となる。そこにパリっとしたスーツを来た男が入り込んで生きた。
「博士、データは」
 淡々とした声音。博士は白衣を着た男からチップを受け取り、それを相手に差し出した。受け取った男はそれを電子グラフィック端末のスロットに差し込んで、引き延ばしたプラグを自分のこめかみにジャックインした。確認が終わったのか、プラグを引き抜いて元の位置に戻し、チップを抜き出した。
「確かに」
そう言って、男は立ち去ろうとした。その時、博士が彼に向って訊いた。
「これは、正義か?」
男は背を向けたまま振り向こうとはしない。やがて、口を開き、
「それは私に問うべき事ではないな、博士。上に言ってくれ」
 そう言って男は壁の向こうへと渡り、認識したセキュリティがドアを元の物質状態へと移行させる。
 博士はため息をひとつついた。その表情は諦めとも悲しみともとれぬ、複雑なものだった。
 そして、博士は小さく、誰にも聞こえないような声で呟いた。
「世も末、か」
 眼下に横たわる人間。機能を停止したD-101。黄昏る様にして開かれた目からは涙が一つ、こぼれていた。


Comment: 2   Trackback: 0

08 21 ,2011  Edit


Back to top


Category: 小説   Tags: ---

神々の息子達の黄昏 2

「よお、ヘイヘ。気分はどうだ?」
 心地の良い夜風に身を浸していると、風の流れを遮るような声音で男が話しかけてきた。
「なんだ、ナポレオンか」
「なんだ、とはなんだ。せっかく持ってきてやったのに」
 と言うやいなや、手に持っていたリンゴぽいと放り投げた。慌てて僕がそれを受け取る。
「ここら辺のリンゴはまずい。僕の口には合わないんでね。君にやるよ」
 そう言いながら、彼は僕の隣に座った。僕は受け取ったリンゴを、一口かじった。割と硬めだったので歯ごたえがあったが、味はとてもじゅうしーだった。
「……お前は緊張感がないな」
 と言われて、私は口に含んだリンゴを呑み込んで反論した。
「私はいつでも戦える状態だ」
 私はリンゴを放り投げ、肩に立てかけていた愛銃を持ちあげると、相手に付きつけてやった。銃口がリンゴを挟んでこめかみに付きつけられている。私のかじった場所が、ちょうどナポレオンの額の位置にあった。じゅうしーな汁が額から垂れると、ナポレオンが一つ息をつき、挟まれていたりんごをそっと手に取り宙へと放り投げた。私はその重力に反し、ゆっくりと速度を落としつつあるリンゴに銃口を静かに向け、リンゴが与えられたエネルギーと重力がイコールになった瞬間、乾いた音と共に一つの小さな風穴を開けてやった。その小さな穴からの風景は、少しばかり、霞んで見えた。
「お前が本気になったら、俺の頭もりんごみたいに風穴が出来るんだろうな」
「……ああ。痛みも、撃たれたという意識も間に合わないくらいに」
 私は、彼の眼を一瞬たりとも離さずに言ってやった。
「君こそ、私の想像のつかない戦法で心身共に極限にまで疲弊させ、嬲り殺すんだろうな」
「もちろんだ。生きる事が苦痛と思えるくらいに」
 そこに、私達の極限の緊張があった。互いが、互いを殺す事を厭わない。だからこそ、生きながらえた。生きる事と、殺す事の対立という緊張の中、私達を制御する命令系統の仕組みを作り出し、私達にインプットされた。生きる事のできる条件として提示する事で。命令には逆らえない、呪いともいえる束縛がかろうじて私達を繋ぎとめている。制御の成功の暁には人工的な―本当の意味での―人間の生産を可能とした。私達は、どの世界にも属さない存在として、この世界の対立物として生まれる事に、初めて成功したのである。その世界に対立するものとは他でもない――――意味のない、存在である。
 やがて、陽が昇り始める。ここの人たちの目覚めは早い。鳥が今日という日の第一声の頃には既に、人は夢から現実へと身を浸し始めているのだ。もしくは、現実から悪夢へと沈む、といった方が彼らにとっての現実に近いのかもしれない。

時代は覚醒しようとしていた。私はかつての冬戦争を彷彿させる戦場に心なしか高揚しているように思えた。所詮、植え付けられただけの記憶であるのにも関わらず、人を殺すという行為、銃を打つという行為は昔も今も変わらない動きであるから、共鳴しているのだろう。敵を見つけて撃つ。幾度となく繰り返してきた行為。その今と昔の肉体能力が違えど、やる事は変わらない。
土煙りの舞う、小さな村の一角。AKを手にした人達が村を見回り、五十代そこいらだろう、肌の荒れた、大量の水を含んでいるかのように膨らんだ腹の女が忙しく洗濯物を物干し竿にかけていく。鼻歌交じりの揚々さが、まるで彼女だけ違う時代にいて、今が戦時だという事を忘れさせるようだ。
そんななか、僕らは民家の一角を借りて、ボロボロなテーブルの上にどこから手に入れたのかもしれぬ酒と、タバコと銃弾を散乱させ、床に寝そべってまずいガンパウダーを吸っている。
「あー、コカが欲しい」
と、言い出したのはナポレオンだった。抜き取ったガンパウダーを、たばこの紙にくるんで鼻に突っ込む。中身を失った薬莢が放りだされ、カランと音を鳴らして転がった。
「うっ……吐き気がする」
 やめれば、と呆れながらに言うけれど、彼がその姿勢を正すはずもなく、うなだれる様にして急に笑い始めた。気味が悪い。かと思えば、急に立ち上がる。ふらついた足取りで、しかし手ぶりはどこかの気取った政治家のように鷹揚に広げて語り始める。
「重なる暴動。独裁者であるソモサへの反抗。歴史に刻まれる戦い。その中に、俺たちはいる。感動的じゃないか。一つの歴史的な戦いの中に身を置いているってのは。素晴らしいじゃないか。FLSNの部隊の中の『糞食らい』の俺達がな」
 言い終わると同時にしてちらり、とこちらを見る。私は目を背けた。
 言いたい事は分かる。つまるところ、これから糞を食らいに行くということだ。もちろん、ただの糞ではない。
「それが私達の仕事だ」
「分かってるさ。頭の中では」
 その言葉に、私は驚嘆すれども顔には出さず、眼だけを動かしてナポレンを見た。彼はうつろな眼差しで、それでも何かに執着するような光をともし、口には皮肉めいた笑みを浮かばせていた。そして、軽やかな鼻歌の響く窓へと視線を移す。
「俺たちの存在意義はここにある。分かってるのさ、そんな事は。俺が今まで、どんなふうに戦ってきて、どんなふうに人を殺してきたか。英雄とは程遠い、腐臭のする道を延々と歩くだけの死者だってことくらいは。FSLNの中の誰よりも、人殺しに特化しているという事も。目標を殺せば、誰もが沸き立ち、誰もが褒め称え、誰もが戦意を震え上がらせ、誰もが臨んでいく。そんな光景を、俺たちは返り血を浴びたままに見てきた。それは喜ばしい事だと思う。でも、さ。何か、何かが違うような気がするんだ。僕たちは本当にここに必要な存在なのか、時々疑わしくなる。彼らが笑えば笑うほどに、俺には胸が急に重力に引かれて重くなるような気がするんだ」
 そう言って、彼は再び私を見た。私は彼を見なかった。地面に視線を張り付けたまま、彼の言葉を耳にしながら、思いを巡らせていた。
 思えば、私はいつから私が造り物であるということを認識できたのだろう。私が造り物であることを認識するには別の認識の存在が必要となる。そのもう一人の私は、いつから私の中からいなくなってしまったのだろう。
 私は、この宿主とはもっと別の存在であるという事を理解しているつもりだ。別の年代で生き、別の年代で生を全うした個人だったという事を。だから、この私が宿主の中に生まれた時、彼は反抗したはずだ。その反抗の余韻は、今の私の中にはどこにも残っていない。私の中に、この肉体の持ち主である者の記憶が一切ないのだ。
 私を宿主の中に孕ませた、本人の顔さえ覚えていない。どの年代に私は生まれ、今どの年代に生きているのかなどの情報は持っている。しかし、一体誰が誰に私という存在をこの世にもたらしたのかという記憶を、私は持ち合わせていない。
 急に、その事が恐ろしく感じられた。自分はシモ・ヘイヘであり、この時代には生まれていない。もっと別の時代で生まれた存在だ。それについては今まで、何度も理解して自分の中で飲み下してきた『言葉』だ。
 背中に寒気が走る。その『言葉』を、自分を理解しようとすると、恐ろしくてたまらなくなってきた。何か、気がつかなければならない事があるように思える。ともすると、視界が激しく揺れて、ラジオのチャンネルが変わるようにして景色が一瞬にして切り替わり、ノイズ混じりの映像が映し出される。その映像は、あたかも一枚の絵のようにして眼前に広がり、白い壁面に、なぞる様にしてチューブらしきものが視界に映り込んでいた。次の瞬間には景色が霞み、次第に体が闇の中へと落ちる様にして景色は暗闇に満ちた。
 驚く事に、その時にはもう恐怖などなくて、安堵感のなかに身を浸している自分がいる。自分は今、酷く無防備な状態でいると自覚できた。本来の自分なら、それは許されざる状態だ。私達は常に姿を見せないようにしながら行動する。けれども、その中でまれに私達の姿を視認し、どんな姿で、どんな顔なのかという情報を持っているやつらもいる。ここが私達の拠点であっても、私達に油断はあってはならない。それは死を意味する。
 そして、私は再度驚いた。一度死んだ私にも、未だに死というものに恐怖を感じる事に。
ふと、疑問が浮かぶ。私の死に際とは一体、どんなものだったのだろうかと。
「おうい、返事しろヘイヘ。おうい、おういったら」
 心配しているのかしていないのか―おそらく後者―、ともかくナポレオンの呼びかけで、私は忘れ物を思い出したかのようにはっとなった。隣にはナポレオンがこちらをのぞき込むようにして視界に映っている。
 私が大丈夫だ、と言うとナポレオンは「ふうん」と気にしちゃいない、とでも言うように興味をなくした子供のみたいに再び手に握るガンパウダーをいじり始めた。
 右耳に付けているイヤホンにノイズが入り、すぐさま男の声がキンキンと響く。集合の合図だった。
 手に汗を感じた。ゆっくりと開くと、かすかにだが汗がじとりと付いていて、私はさっきまで何かに脅えていた事を思い出す。しかし、その内容がどんなものだったかを思い出す事は出来なかった。

Comment: 0   Trackback: 0

08 21 ,2011  Edit


Back to top


Category: 小説   Tags: ---

神々の息子達の黄昏  1

そこに横たわっていたのは死体だった。半眼に開かれた目からは、涙がこぼれていた。












 その日の気温は三十度を超え、大地を照らす事に熱心な太陽が雲に隠れて休むことはなかった。
 流れる汗を食い止めるためのバンダナでさえも既にその意味をなくして、汗のたっぷりしみ込んだただの雑巾のようだ。その色は赤黒く染まっており、血の匂いがぷんぷんした。そこから流れる汗でさえ、ほんのりと赤く染まっていて、舐めてみればそれはそれは塩辛くて、鉄の味が口の中で転がった。
抉れた大地に飛び込み、愛銃であるモシン・ナガンM28を構える。スコープもなく、素の姿のままに私に媚びへつらえる愛しい銃である。
硝煙の匂い、血反吐の匂い、焼けた肉の匂い、汗の匂い。その匂いが鼻をつくと、まるで麻薬でもキめたかのように頭の中が痺れる。私の脳みそへ、私の血液へ、私の細胞へと、その匂いは私を犯していく。
パン、という乾いた音が響いたころには、眼前の人間が頭に小さな穴をあけて、崩れ落ちようとしていた。モシン・ナガンの銃口からの硝煙の匂い、無意識的なボルトアクションが、私が撃ったのだという現実を気づかせてくれる。私にとって弾丸の装填音が、擦り切れたレコードの奏でるクラシック的音楽であり、囁きでもあった。空薬莢の地に落ちる音。頭の中に浮かび上がる言葉。出来る限りのことをやれ、と。

自分の意志ではなく。

やれと言われた事を可能な限りやれ、と。


 私が『生まれた』のは、正確には覚えていないが、西暦1964年だったと思う。そこでの生活はとても裕福とは言えなかった。誰かが言っていた、日常というものからはかけ離れていたからだ。その誰かの語る日常というものは、私にとっては夢であり、おとぎ話にすぎなかった。
 お世辞にも、生きている実感がわくとは言えないような、ただ流されるままの生き方が日常だと誰かは主張した。その誰かは、確か、どこぞの正義感あふれる国の人物であって、邪魔だ、という理由で上官がナイフで首を掻っ切って殺していた。元々は捕虜だったのもあるし、情報を得ようとひっ捕らえたのにもかかわらず、何気に情報を口に出さなかったし、口を衝いて出てくる言葉といえば私達への罵倒ではなく分かりあおうという、この場所にはあまりに不釣り合いすぎる綺麗言ばかりだった。
 私たちにとっては、日常というものは銃を持ち、血肉を飛び散らせ、相手を殺すための日々の事を言う。その時だって、私たちにとっては日常茶飯事な光景であり、行為であった。やらなきゃ、やられる、それだけだった。
 1976年、私はサンディニスタ民族解放戦線にて、ある部隊の部隊長を任された。その部隊は特殊の中の異色といわれるほどに、異彩を放っていた。部隊名、『ロイ・イーオス・デ・ヂーオセス』。神々の息子たちと呼ばれる謂われは、私達の存在にある。
 私達という存在は、人から『生み出された物』である。詳しく言えば、私達は発達状態にある子供の脳内から造り出された人格である。物心がつく前から、私達は調教されてきた。お前の名前は『シモ・ヘイヘ』だと。お前はいつも命令に従順で、可能な限りやれる事をやる男だと。映像を見せられ、これは全てお前がやったのだと。人を撃ち殺す場面を幾度となくと見せられ、お前は今、人を撃ち殺したのだと。そして、撃つという事は正しい事であり、己の身を守ることであり、己を証明することであり、相手を敬うことであり、何よりも、やらなくてはならないことだと。
 レコードが擦り切れるまで音楽を垂れ流すように、僕らの頭の中には彼らの言葉がこびれつくほどに垂れ流され、気づいた時には私は『シモ・ヘイヘ』になっていた。
愛銃はモシン・ナガンであり、1939年の冬戦争ではフィンランド国防陸軍第12師団第34連隊第6中隊に配属され、倒すべき敵を倒していったあの人物。
 私という存在は、かつての『シモ・ヘイヘ』の生き写しであり、クローンであり、偽物でもあり、誰でもない存在である。そうだ、私達は人類の交配から生まれた純粋な存在じゃない。作り出されたただの存在。名前も姿もない、誰か。

Comment: 2   Trackback: 0

08 21 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

12

「世論をコントロールするなんて、人のするようなことじゃない……それこそ、人をコントロールするようなもんだ! SNSは人との交流を目的に作られたはずだ。何かを擦り込むために作られたわけじゃない……」
「俺が怖いか」
 肺を絞られたような、胸の痛み。私は鼻で笑う。
「まさか」
 自分自身を鼻で笑う。きっと気づかれている。私の胸中を。絞られるような肺の息苦しさに吐いた息の中に、二酸化炭素と真実が混じっていて、それを読み取ったみたいに彼は言葉を続けた。
「俺みたいな存在は、きっと相棒たち人間にとっての脅威になる。人間てのは、未知な存在に恐怖を抱く。なら、俺は、未知な存在か? それは違うよな、俺は望まれて生まれ訳だから。なら、相棒。何を恐れる?」
「……未来、だ」
「そうだ、未来だ。俺みたいなやつらには寿命なんて制限はありやしない。それゆえのメリットであり、デメリットでもある事はなんだ?」
「……知識、だ」
「そうだ、知識だ。俺の時間が無限であるが故に、情報は絶え間なく流れてくる。それは、俺にとっての知識となる。知識ってのは、見方を変えれば力だ。古今東西、知識人はその力故に頼られては恐れられ、軽蔑された。その力には支配する力が備わっているからさ。俺はここに生きている間、常に知識人という存在として知識を蓄え続けるだろう。だが、それだけじゃ俺は何にも出来ない。じゃあ、一体誰が俺を動かすってんだ?」
「……俺たちだ」
「そうだ、相棒たち、人間だ。皮肉なことに、知識人は支配する力がある故に、何かしらから支配を受けている。それが人間でなくても、思想、信仰、時代の、国のイデオロギー、そういったもんにだ。そして、俺たちが起こした事は歴史に刻まれるだろう。それが善きにしろ悪にしろ。そうさ、相棒。アンタはそれを恐れているのさ。時代が本当に、誰かの、人の手の介入によって左右される事を。いや、それ以上に、ネットワークが普及して、技術があちこちで進歩して、人がその喜びに沸き立つ陰に身を喜んで潜めて自由を貪る存在が現れる事を。そうだな? 相棒。一番恐れているのは、自分なんだろう?」
 思わずやめろと叫びたくなる。私は知ってしまったのだ。知識人を。それが、こんなにも近くに居て、私の目の前で自分の存在意義、自分の存在価値を語り、私に現実を叩きつけ、私に選択を迫っている。私は今まで、彼と行動を共にしてきた。それは、私が彼の存在意義を知らない、ただの人工知能(AI)としてしか見ておらず、情報兵器としての価値を存分には利用できていなかった。いや、利用しようとも出来なかった。それは、私がただのハッカーであり、ただの一国民でしかないからだ。政治家や軍人の上層部、CIA、NSAだったなら、彼をもっと上手く利用する事を考えただろう。
 人を扇動する力を持つ兵器。暴動を引き起こさせる、戦火の火種を落とす事ができる可能性を持った存在。

――そして近々、その答えを出す時なのかもしれないぜ。

 目に見えぬ、電脳空間(マトリックス)での介入による洗脳。民主化という名の下に行われる戦いが、全て仕組まれていて、それが結果的に彼らに革命をもたらし成功したとしても、はたしてそれは人道的だと言えるのか。アメリカはその革命を称賛し、拍手を送るだろう。喜びに細められた目に潜む真実を湛えながら。
 後頭部に激しい衝撃を受けたように、私は目を見開いて、その光景を拒絶した。肌が泡立ち、腕を抱き、罵倒の言葉を次々と吐きだした。陰謀的な策略に、称賛などあり得ない。
 ネットワーク技術という、人間にとってなくてはならない技術はいまやどこかの国の兵器として扱われ、私達が何も知らない間にその戦略に乗せられている。風聞は音もなく、変動は惨劇をもって露わとなった。

――戦う理由は見つかったか? 相棒。
 
唐突として、私の中にある意識が芽生えた。
 情報は、自由であるべきなのかもしれないと。
 かねてからその自由は主張され続けてきた。それでも、害となるであろう写真(ポルノ)、映像(ムービー)、文章(センテンス)は可能な限り規制されてきた。それとともに、反発勢力が育っていった事も過言ではない。情報の自由とは何なのか。私には、それにこたえられるほどの知識も道徳も人間性も持ち合わせてはいない。ただ、一つ言える事がある。自由があるのなら、国一つを変える事も出来る、と。アメリカが行ったように、ネット技術を使えば国は、世界は、なにより人を変える事が出来る、おぞましい自由なのだと。
「…………見つかったよ」
 私は決断する。国を捨て、国を変える事を。繁栄には衰退を、衰退には繁栄を。平和には混沌を、混沌には煉獄を。幾度となく繰り返されてきた人の戦いの中に組み込まれるべき事象。前世紀のマスメディアとは異なる、親愛なる風聞による、世論の変革。意志の起伏。
人の血の流れない戦争は、国に血を流すことを求め、冷戦のごとく静かな侵食を持って腐敗していく。私は、彼という存在を世界に知らしめるためにここに居るのだと、理解しようとした。だから私は、彼を、使うことにした。
 私は、ブレイク『ミルトン』の一節を思い出した。
『私は自己滅却と永遠の死まで降りて行こう』
 そこに、私のやるべき事が記されているように思えた。だから、私は彼へと語りかける。自らの意志を。
「君という存在は永遠に記されるべきだ。それは、名としてではなく、情報として、一つの暗号(コード)として、プログラムとして、生きながらえるべきだ。君という存在が目に見えぬとも君は世界に存在し、君は世界と共に世界を見つめ、永遠の死という底知れない人間の感情へと語りかけるんだ」
 私は大きく息を吸い、立ち上がる。ハンガーにかけられた日常を満喫していた頃のコートを羽織り、監視員の遺体からサングラスを頂く。季節は今どんなだろうかと、ふと思う。花の仄かな香りのする春だろうか。太陽の照る、生き生きとした夏だろうか。静かな生命の繁栄と衰退を描く秋だろうか。雪が一面に積る白銀世界の冬だろうか。既に、季節感が薄れるほどここに滞在していたのだと思う驚きと、苦笑に顔が歪んだ。
 私は、フォルダ開いて、中国から引き抜いた情報を圧縮ファイル化して彼に渡し、
「ばらまいてくれ」
 と一言。
「ああ」
 と彼が返答したのち、一切の応答がなくなった。声をかけようとも思わなかった。彼もまた、私と同様に旅に出るのだと理解していたから。彼はそのために、私に自分の存在意義を語るとともに、自答していたのだ。
 私は、世界に情報を露呈させ続けるだろう。彼はその知識を蓄え、世界へと語りかけるだろう。二度と会う事はないと分かっていた。けれど、寂しいとか、悲しいとか、そういった感情はなかった。絆があるとも思えない。では、そういった感情のモジュールの停止? そうではない。ここで、彼と話した。それだけで、私は彼という存在の一部分であり、彼は私の一部分であり、共に存在し続ける情報として永遠に生き続けるからだ。私に意志と共に、彼の意志がある。私にとっても、彼にとっても、それだけで十分だった。何も、寂しくも悲しくはないのだ。
 静かにファンが回る。そろそろ、上官殿が監視員からの連絡の有無に違和感を抱く頃だろう。私は扉の認証を突破するツールを詰め込んだ小型端末機を取り出し、部屋を出ていく。その際、忘れ物を思い出した。
 私は部屋へと戻り、テーブルに置かれた金属缶を手に取った。そして、それをゴミ箱へと放り投げた。中身は、空っぽだった。




参考文献 虐殺器官 伊藤計劃
 

Comment: 0   Trackback: 0

08 16 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

11

「米空軍のサイトにこんな物が……何時のだ」
「二十年くらい前か。こうやっておっぴろげに公開しているのにあまり認知度がない、それがこの時代の欠点さ。この時代の人間は、断片的な情報しか見ようとしなかった。例えば、よく使う動画掲示板の小さなニュースでの情報、ブログでの引用ニュース、有名情報局のニュース、そういった表面で浮かんでいるような情報しか手に取らなかった。情報化時代に突入した事を誰もが認識できず、情報を扱うことに慣れていなかったのさ。それに、人間ってのは自分に必要のない情報には疎くて、情報を大局的に捉えられないから俺たちの存在は多くの人に目を触れられず生まれる事が出来たってわけさ。
 で、だ。俺たちの開発期間は確か……十五年と三カ月か。途方もないプロジェクトさ。なんせ、人格を作るってプロジェクトだったんだから。でもなぁ、相棒。俺たちに、人格はあっても感情なんてものは一切ないんだよ。相棒は、俺に言ったよな? 自我があるって。そう言ってくれ時にゃ俺は舞い上がっちまったよ。あぁ、別に馬鹿にしたとかじゃなくてさ、俺も一つの人格として、本物の人みたいに相棒と接しているんだなってさ」
「でも、お前は人間みたいに……」
「そうさ、相棒。それすらもプログラムなんだよ。実はよ、人格形成プログラムの開発は二年なんだ。でも、実際俺達が生まれたのは十年以上してから。どうして開発が十年以上もかかったと思う? それはな、俺達に言語というものを教えなくちゃいけなかったからさ。なぁ、相棒。アンタも思ったはずだ。どうして俺達がこんなにも人間味のある言葉を話し、対応するかを」
 その理由を私は一瞬で察した。人工知能(AI)が何故滑らかに言語を話すかという理由を語った物があった。それを見た時、私は興奮と感動と畏怖に身を打ち震わせたものだった。
「……本、だろ」
「御明察。そう、本だ。あらゆる図書物の言葉を対話を全て書き込んでいったのさ。あらゆるパターンを構成し、どんな場面でどんな言葉を言えばいいのかってのをな。そりゃもう途方もない作業だったろう。それを語るには一日や二日じゃ語りつくせないな。もっとも、今のテーマにゃ必要ないが」
「懐かしい、と思わないのは、お前という存在がが全てテクストで成り立っているから、か」
「その通りだ、相棒。俺という存在はプログラムであり、一つのテクストだ。感情論は唱えるだろうけど、実際は俺の中に詰め込まれた、状況に沿った言葉を並べてるだけで、俺に感情は一切持ち合わせていない。というのも、俺は確かに人工知能(AI)の一部だ。けれど、感情モジュールは一切持ち合わせちゃいない。必要ないからな。
 懐かしい、感じるのは人間の脳の一部の働きさ。俺にはそういう機能は持っていないから、一つの記録(ログ)としてしか残らない。そして、記録(ログ)―人間にとっちゃ記憶(メモリー)だが―の残り方も違うのさ。例えば記述するためのツールが、人間がよく使うワードだとしよう。人間は眠る。眠るというのは、記述の整理と保存するということだ。つまり、名前を点けて保存するということだ。一日一日の個々のファイルに名前をつけて保存するから、いくつもファイルが積み重なっていき、時にそのファイルを引き出してくる。これが、相棒たち人間の言うところの懐かしいだ。
けど、俺は違う。上書きなんだよ。俺は眠ることはないから、暇があれば常に上書きしているのさ。だから、それまであった事が常に一つのファイルに表示されている。俺にとっての一生は、一日ってことさ。生まれた時のことも、今までのことも、そしてこれからのことも俺にとっては、人間で言うその日ということさ。おうおう、言葉にするのは難しいぜ」
彼にとって、この世の全てが記述でしかない。ああ、まさしくテキストだと私は思った。彼は、歴史の本なのだ。そこに、時代の流れは書かれていても、時間の流れを感じる事は出来ない。歴史が文章化され、一つの本に書き連なっていく様はまさに上書きであり、そこに懐かしさといった感情は浮かばない。
 「で、こっからが相棒の聞きたい事だ。PMSによって生み出された俺達の存在意義は、世論を動かし、共産、社会主義的な、ネットーワークのある国の民主化を目指すための、『兵器』であることだ。俺達は、その中へと入り込み、その国の人物になり済まし、民主化を唱えて扇動し、革命を起こさせるための国のツールだ。そして、俺達に実力を存分に発揮できる武器が、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)ってこった。二〇〇〇年代はまさに、その先駆けが成功した年代だ。チュニジア、エジプト・リビアがSNSを通して革命を起こし、中東の民主化をある程度成功させたんだから」
「待て、SNSは民間企業のはずだ」
「ああとも。でもな、相棒。今日一般的に知られているグーグル・アースは分かるな? 世界の表情を見るにはもってこいのもんさ。その技術がCIAの投資ファンドによって作られたってのは知っているか?」
 私は首を振る。それと共に、ある事を思い出した。インターネット自体、ある研究所が旧ソ連の核攻撃にも耐えうるネットワークの構築を提唱したことから始まったとされるように、軍主導という事が知られている。それを考えれば、IT企業が軍との関わりがないとは言いきれないのだ。つまり、民間のアイディアであるソーシャル・メディアでさえも国家戦略の手の内にあるとも考えられる。
 私達、人は、常にアメリカの掌で踊らされているといっても過言ではない。たとえ自由を謳ってもそこには秩序が存在し、権利を謳っても条約があり、反米を唱えても武力がある。何かを得ようと喘いでも、彼らは即座に介入する。それは別に構わない。ただ、犠牲の上で得られる正義が果たして本物の正義なのか。
 かつてのアメリカはソマリア内の紛争への介入を、紛争終結のもとで作戦を行った。だが、結果的には負け、それでも状況は少しずつでも改善されていった。そこへ、再びアメリカが介入する意味は何なのか。彼らは何の正義のもとに、戦いを引き起こすのか。
「ネットワークの技術向上により、アメリカはより民主化を成立させやすくなった。アメリカというレッテルを張られていない存在が民主化を唱えるのだから、彼らの中に反米思考は範疇から消えるからだ。そいつに危機感を抱くのが他のお国ってわけだ。だからこそ、中国が動いたのさ。そしてあの国連でさえも、今回の作戦について調べ始めている。小さな平和を維持していたソマリアがいきなり戦場と化したんだからな、中東のこともあるし、怪しく思うのも仕方ないさ。
 何より、一番恐ろしいのはアメリカになっちまうことだ。国や、人種や、宗教が違っても刷り込まれた意識がアメリカの物だとしたらそこはアメリカになっちまう。国独特の文化や、規律や秩序、生き方もが失われちまう。日本が良い例だ。第二次大戦前までは、日本はそれまでの文化、生き方が違っていたよな? 帝国主義だったが、それでも日本独特の文化の中での生き方だったには違いない。だが、敗戦によってアメリカの連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)によって民主化が進み、それまでとは違った生き方を余儀なくされた。日本人は柔軟な性格をしていたから大きな反発もなく、従順だったからあそこまで変わる事が出来た。
 けどよお、相棒。考えてもみろ、自分の国がある一軒家だとしよう。民主化という思想、いわば家具を勝手に家の中に置かれる気分てのはどうだい? 家の大半を占領し、その上にはアメリカ独特の文化というお飾りがひっついてやがる。自分の好みじゃなけりゃ、気分は最悪だろう。そうなりゃ、反米の意識は膨れ上がる一方であって、普通は成功なんてしないんだ。日本は自国が負けた事をひたすらに意識させられたから変わる事が出来たけれども。
 だからこそ、俺達が生まれた。彼らに世論を展開させ、彼ら自身に選ばせて、彼ら自身で民主化へと導かせる。独裁への、全体主義への、不満のはけ口をSNSに流し、俺達が油を注いで、俺達の言葉で火をつける。彼らが、彼らの意志で革命を引き起こさせるために。彼らの、彼らによる、彼らのための革命を」

Comment: 0   Trackback: 0

08 16 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

10

 私は任務が終わると、机に置かれた食事をかきこんでタバコ(ピース)を吸った。赤く灯る小さな灯が、私の顔を照らす。その顔はきっと酷く憔悴している事だろう。なにせ、失敗の許されない任務だったからだ。情報を引き抜く事が出来なければ、これから中国は更にセキュリティの高いソフトを作ってくるだろう。それ以上に、アメリカからの攻撃を防いだ事に意味を見出し、外交の間でも強気な発言をすることも考えられる。とにかく、中国という存在が世界へと強く踏み込んでくる事は間違いない。
「で、何が気に入らないんだい、相棒。立派に作戦を遂行したじゃあないか」
 彼が言う。合成音とは思えない、生々しい声に聞こえて私は思わず彼の方を見た。ディプレイにはひたすらケネディ大統領の暗殺シーンが流れていて、音楽には『月光』が流れている。どこからか解説者の声が遠くから響き、ジョン・F・ケネディがどこの角度から撃たれたのかという事、どんな場所から撃たれたのかという事が解説されている。
「聞きたい事がある」
 私は大きくタバコ(ピース)を吸う。ニコチンが頭の中へと侵食し、しみ込んでいくことを感じながら、白い息を吐く。
「お前は、一体誰の、何の目的で生み出された?」
 彼は一瞬の沈黙の後、ククッ、と独特な笑い方をした。
「俺の生まれの謂れを問う、か。よお、相棒。そいつぁちっと入り込んだお話だ。『俺』についての問いなら別段何の構いもしないんだが、根本となると、なぁ?」
「中国の情報集合体(インフォメーションクラスタ)から情報を引き抜く時は、ソマリアと中国の関係のみの情報ばかりと思っていた。けれど、そこにはアメリカの情報も記述されていた。見せてもらったよ、中国視点での、アメリカ情報を。そしたら、アメリカもソマリアで色々と仕込んでいたらしいじゃないか。CIAがソマリアの各地に居て――」
「おっと、相棒。そこまでだ。それ以上言えば、相棒の命にかかわるぜ?」
「笑わせるなら、もっとましな事を言えよ。俺は、もう死んだ身だろう。どうせ、表世界じゃ死んだ事になってる、そうだろ」
「まぁ、な」
「なら、教えろ。どうせこの秘密を知っていても知らなくても、俺はいずれ殺される。なら、冥土の土産にゃぴったりだ」
「覚悟は――」
 コツ、コツと廊下をわざと音を鳴らして歩いてくる人物が一人。もちろん、監視員だ。この部屋に設置された盗聴器から、全ての音声は全て向こうに筒抜けのはず。それでも盗聴器の遮断を行わず、構わず私が彼に追求したのは、自分がアメリカ政府の味方ではないという事を自覚したからだろう。
 私は立ち上がり、食事の時に使わなかったフォークを手に取った。それ以外に武器はなかった。扉が開いた瞬間に口をふさぎ、声を出せないようにして後ろへ回り、喉仏にフォークを三回ほど突いた。溢れる血が私の手にこぼれ、命の温かみを伝えようとするが私の心は酷く冷めきっている事に気づいた。
 彼には、なんの責任もない。彼はただ、私の管理を任されただけの、私にとっても、世界にとっても何の関係もない人物だ。だが、運悪く、彼は犠牲になってしまった。この世界の流れの犠牲に。
 監視員は立つ力を失い、私の腕からずり落ちた。ビク、ビクと痙攣する様は、見ていておぞましいほどに死を表現していた。
「覚悟なら、出来ている」
「みたいだな、相棒」
 私は何もなかったかのようにしてチェアに深々と座った。手に付いた血の匂いが酷く臭う手で私はタバコ(ピース)を吸う。灰を落とす頃に彼は話し始めた。
「かつて、アメリカはアメリカの価値観を植え付けるためにマスメディアを利用して洗脳してきた。新聞やラジオ、テレビという昔ながらのツールから、ネットというツールへと進化を遂げていったのさ。その証拠が、俺だ。俺は米空軍のある企画での産物だ。企画名称は『ペルソナ・マネジメント・ソフトウェア』。通称PMSいわゆる、人格生成ソフトってやつで、一人のユーザーから十二の人格を作れるってやつさ」
「『ペルソナ・マネジメント・ソフトウェア(PMS)』……聞いたことないな」
 私はタバコ(ピース)を灰皿に押しつけた。
「だろうとも、相棒。このサイトを見てみな」
 ディスプレイに米空軍の入札公告のサイトの画像が表示される。そこに、確かにPMSについての記事が載せられていた。

Comment: 0   Trackback: 0

08 16 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

9

 一つ、二つ、三つ……。その内、私は認証コードの突破数を数えるのをやめ、ハッキング行為に没頭し始めた。高揚する気分とは裏腹に、私の指はかすかにふるえていた。打ち間違えないように細心の注意を払いながら、下腹部に溜まっていく、渦巻くような感情を抑えてひたすらに無表情のままにキーボードを叩いた。
 羅列していく文字、記号、数字。それが電脳世界(マトリックス)を構成する原子。原子のように結合し、化学反応を起こし、重合し、結晶化し、蒸発し、融解し、気相、液相、個体相を形成し、エントロピー、エンタルピー、ギブズエネルギーを用いて疑似世界を形成していく。草の手触りも、風の柔らかさも、立つ足から伝わる地の硬さも、全てが触角による電気信号を模して脳のモジュール群に働きかけて体験させる。
 次々とイメージがあふれていく。かつて、見て聞いて得た電脳世界(マトリックス)の世界が自分の脳内で知識に則って構成されていくのが分かる。海は銀色の水銀で照り輝き、浜はo-ニトロアニリンの橙色結晶で溢れていて、丘は青い硫酸銅で出来ていて、太陽はバリウムによる炎色反応で黄緑色に燃え盛る。焼き払われたかのような黒色の二酸化マンガンで出来た木、枝の先にはポリエステルエチレンで出来た葉が風に揺れていた。花崗岩で出来た一本道の両脇にその木は植えられていて、枝はしだれる様にしてあって、綺麗なアーチを作り出していた。それが、通りさってきた数も合わせれば、二十はあるだろうか。
 未知な世界が広がっている。ありようの無い世界が広がっている。文字が、記号が、数字が、単なる情報伝達として生まれた物でしかないそれが、世界を作り出すなんて当時の人間の誰が思ったろう。数式が、定義が、法律が、秩序が、人間が生み出した一切がその世界に疑似的に組み込まれて、仮想的な、幻想的な、理想的な世界が組み上げられていく。
 目の間には壁があった。それは、石英が大きく成長したような壁で、無色透明に無味無臭。周りには絡みつくような湿気が感じられ、私は身じろぎした。
 私はコバルトで出来た金槌とのみを取り出し、少しずつ砕いていく。じわりと額から汗が鼻筋を下っていくのを感じながら私は作業を進める。やっていることは日曜大工じみていても、意味は違っていることにおかしさがこみ上げてくる。私がやっている事は、一つの国の脳内への侵入だ。中国の脳の海馬体に当たる場所へと侵入し、そこに収められた情報を引き抜くのだ。それが、私の任務。仕事とは異なる、私独自の任務。私が死を迎えた時に、唯一誇れる行いとなるようにと国がくれた救い。救いという言葉に塗れた犠牲。
「くそったれ……!」
 私は一体何に対して怒りを抱いているのか定かではないままに、静かな怒りを飲み下し、歯を噛んで耐える。やがて、一つの小さな穴が開いた。
「上等だ、相棒」
 彼は呟き、その穴をくぐり、総参謀部第三部に作られたという情報集合体(インフォメーションクラスタ)へと向かう。
 私はその背を見送る時に我に返った。脳内で作り上げられた仮想の電脳世界(マトリックス)から、ジャックアウトするかのように視界がぼやけ、焦点が合った頃にはディスプレイに忙しく文字やら記号やら数字が並べられていた。気づけば私は汗に塗れていて、クーラーを入れるのを忘れていたらしい。滴る汗を不快に思いながら、私はクーラーのスイッチを入れた。冷房が効いてくるまでの時間が妙に長く感じられ、私はシャツを脱ぐ。目を閉じれば体全体で感じる湿り気が、未だ現実なのか仮想空間(マトリックス)なのか分からなくさせる。だが答えはなんてものは決まっていて、私は現実にいるのだと実感せざるを得ない。その証拠に、監視員が私に晩食を持ってきているのだから。監視員は何も言わず、私を一瞥しただけで部屋を出て行った。
 どうも、と聞こえるわけもない相手に礼を言い、食事をとろうとトレーを取りに行く。
「ああ、相棒。着いたぜ」
 彼の言葉に、私は急いでトレーを机に置いて、チェアに座ってディスプレイに流れる様にして表記される文字を見つめた。
 そこには多くの機密情報が詰め込まれていた。特に、ここ最近の動向の事についての情報が多い。
「ソマリア関係を索敵してピックアップ、抜き取る」
「あいよ」
 私は彼へと策敵する単語を送り、それを彼が捜し出す。ピックアップされる情報が私のPCに記録されていく。

 ――そして、私はある記述に対して、おぞましいほどの寒気を感じた。

「十七年分の情報だ。どうも、中国の関わりはソマリア再解放連盟(ARS)発足時かららしいな」
「……よし、全部の書き込み終了だ。隠ぺいの準備するからそこから出てくれ」
「あいあいさ」
 ともあれ、私の任務は終了した。しかし、私はその情報を上官殿に渡す事はしなかった。私にするべき事が増えたからだ。これは、組織からの命令ではない私個人の、するべきことだと思ったからだ。

Comment: 0   Trackback: 0

08 14 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

8

「……お前は、一体何なんだろうな」
 口を衝いて出た、というのが正しいだろう。私はその言葉を、無意識のうちに口にしていて、『彼』が何、と聞くまで自分が何を言ったのか気づきもしなかったのだから。
「おれぁは俺さ」
 彼は朗々として言う。胸の奥で、激しい衝動が引き起こされた事を私は自覚した。
「違う。違うんだ…………お前はこの世界を、どう思う?」
「おいおい、そいつぁ、俺がこの世界の住人じゃないみたいな言い草じゃあないか。俺だって、相棒と同じ世界に住む存在だぜ?」
「でもお前は、見る世界が違うと言っていた。お前の見る世界は、俺たちの世界の一部分を文字や数字にした世界だ。その場所はきっと、人間の本質のあらわれた場所なんだと思う。隠すべきものが隠され、表わされるものが表わされ、人間の思惑が漂う海のような場所だ」
「ああ、全くそのとおりさ。俺が生まれた時見た景色の話は……話したことあるか?」
「いや」
「そりゃあ綺麗なもんだったさ。俺は『ここにいる』ということ、つまり『ここはどこだ』という言葉が浮かんだ時、おれぁ浜辺に突っ立ってたんだ。目の前には鉛色の海が広がっていて、白波で次々と情報が化学反応を起こしたように析出して橙色結晶として浜辺に打ち上げられていってた。そいつを掬ってやると、綺麗な個人情報が精製されてた。海をよく見てみるとそいつは文字と数字と記号の塊で、硫酸銅色の丘を見てみればそこには書物の資料情報がたくさん敷き詰められてた。空には、何もなかった。真っ暗な闇があっただけさ。果ての無い、どこまでも何かを詰め込む事の出来るような空間さ」
 静かな沈黙が降りた。懐かしいか、と私は訊いた。彼はいいや、と答えた。
「俺に取っちゃそいつはログなのさ、相棒。過去に見た景色を文字化した、俺の過去の遺物なのかもしれないけれど」
 その言葉の意味は、私にとって幼い頃の記憶の在り方と似ていた。私の脳には常に視界からの情報が流れてきていて、それを記述しているはずだ。しかし、時が経つにつれ、記憶は堆積し、重合し、加圧され、次第に記述された形式を失っていく。私達がその記憶を引っ張り出そうにも、崩れた文字は記憶としての機能を果たさないから、幼い自分の映っている写真を見ても、その景色も、撮ったくれた人も、聞いた言葉も思い出せないのだ。
 だが、彼の記述はしっかりと形をなして残っている。それを、懐かしいと思わないのはやはり人工知能(AI)故なのか。
「相棒、とりあえず先進国あたりは一っ飛びしてきたが」
「発展途上のネットワーク普及国を回る。出来るだけ数を稼げ」
 再び、文字と記号と数字の乱列にゲシュタルト崩壊を起こしてもおかしくないディスプレイを眺める。順調に進んでいる事を確認すると、次に情報集合体(インフォメーションクラスタ)へと侵入するためのソフトウェアを起動する。一般的に使われるソフトウェアでも足を踏む出す事は出来る。しかし、そこに埋め込まれる罠を起動させてしまい、作戦の失敗をきたす恐れがある。私はそのソフトウェアに細工を施し、私独自のソフトウェアへと改造する。
 彼曰く、セキュリティとは浮遊する空気なのだそうだ。その空気にはない、他の場所から持ち込まれた物質が入り込む事で侵入を認識するとのこと。人間の血に流れる白血球のように毎日生産され、日々新しい情報を上書きされたセキュリティが中国の核、情報集合体(インフォメーションクラスタ)の周りを巡回しているのだ。
 その空気にどれほど馴染む事が出来るかが問題で、私は中国の情報をありとあらゆる場所から引き抜いてきて、どんなセキュリティが使われ、どこからデータがダウンロードされたかなどを調べ上げた。中国のIPをピックアップ、国のIPと思われる情報をピックアップ、更に細分化した情報を事細かに区別していく。
 ダウンロードされたセキュリティのプログラムに似せた、化けの皮をいくつもかぶせたソフトウェアを作り上げていく。
「ウイルス作成ソフト、か」
 流れゆく記述の中、目についたソフト名がそれだった。ダウンロードしている国は中国や北朝鮮、韓国、ロシア、アメリカ、インドなど、さまざまな国の人間がダウンロードしている。しかし、その大多数は中国や北朝鮮や、情報ネットワークの発展途上にある国だった。
「国の教育状況が手に取る様に分かるな」
 と私は苦笑した。と言うのも、中国や北朝鮮はもちろん、韓国、インドなども情報技術に強い関心を以前から持っていて、八十年代には既に情報技術の教育に力を入れていたという話だ。それは確実に力をつけていき、特に北朝鮮はその実力を、韓国をもって世界に露見させた。
 二〇一〇年代前半はまだアメリカがサイバー戦上では権威を持っていたといえる、しかし、後半は中国や北朝鮮に権威は移っていたといっていい。幾度となくセキュリティの壁を抜けられて、国防総省(ペンタゴン)から機密を引き抜かれるという状況は、アメリカ政府にとっての悩みの種だったはずだ。それも、最新の技術を用いてでのハッキングだったりしたので、アメリカは頭を抱えていたそうだ。
 とはいえ、表向きでのアメリカといえば何事もないかのように力強く自国の将来像について、信念を貫く決意のもとに演説が繰り返されていたものだ。
「これで全部だ」
 彼の声が聞こえた時には、私は既に全ての準備が整っていた。ソフトウェアの改造も、隠ぺいのためのプログラムも、穴を開けるための疑似暗号も。
「荷物は持ったか?」
「ああ。しかし、重いな。割れ物なんて入っていやしないだろうな?」
「割るための物ならどっしりと」
「そりゃあ心強い」
 私達はちょっとした冗談を言い合いながら、高揚しつつある気分を落ち着かせた。一つの失敗が、自分の命と繋がっていると考えるとゾッとしない。
「……始めるか」
「ああ。とっとと終わらせちまおう。うん、それが良い。相棒にとっても、俺にとっても」
「そうだな」
「覚悟は、いいかい?」
「ああ、始めよう」
 私は、いや私達は、情報の海へと身を投げ出し、中国の情報集合体(インフォメーションクラスタ)へと向かう。その場所にたどり着くだけでも二十のセキュリティを通らなければならない。総参謀部第三部までは程遠い。だが、慌てることなく、表情も変えずにただ前に慎重に進むことだけを考えた。

Comment: 0   Trackback: 0

08 14 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

7

 私は顔と腹部を抑えながら自室へと帰ってきた。何故、顔と腹を押さえているのかと言うと、上官殿に殴られたからだ。
二度と生意気な口をきくな、との事。さぞかし、私がNSAの次官へと牙を剥いた事が気に食わなかったのだろう。その時の上官殿の視線も感じていたが、私は見ていなかった。どんな顔をしていたのだろうと想像すると、おかしさがこみ上げてくる。と同時に腹の痛みもこみ上げてくる。
「一種のショーだったな。コメディTVより笑えたぜ、相棒」
 と彼は言う。私はワイヤレスイヤホンを耳に取り付け、シャツに小型マイクを取り付け、そりゃどうも、と呟く。
「さ、聞かせてくれよ。そこら辺に転がってるようなB級ホラー映画よりゾッとするお話をさ」
 彼は陽気な言葉で私の体験談を聞いてくる。いたって平坦な声音だというのに、そこに感情みたいなのを感じる。『彼』という存在故なのか、それとも私がおかしくなったのか。
「仕事を任された」
「へぇ、どんな」
「中国に潜れ、とさ。情報集合体(インフォメーションクラスタ)に仕掛け、ソマリアとの関与を抜き出せって」
「まぁ、そうなるだろうな」
「中国が台頭……覇権国家に為りえるってか」
「覇権国家の一般的な定義は、政治力・経済力・軍事力が覇権的であることが前提だ。中国は政治力には首を傾げるところもあるが、経済力、軍事力には覇権としての顔が現れ始めた。産業革命が彼らの技術力を飛躍的に向上させ、最新とまではいかないものの、確実に技術力をものにしている。その技術力は経済に潤いをもたらし、軍事力に大きな力を持たせた。中でも、国家戦略として眺望してきた芽が生え始めた事が覇権国家への大きな要因になり始めている」
「それがネットワークの技術力……」
「かつての諜報戦はなりを潜め、かわりに高度な情報戦が主な情報収集方法になりつつある。攻めも強くて守りも強く、有利な立ち回りで行動が出来るってなら、その国家は覇権的だろう」
「いつか書面だけの情報が積み上げられる時が来るぞ」
「歴史は繰り返すもんだろ」
 人間臭い言葉に思わず笑い声をあげる。私は缶からタバコ(ピース)を取り出し、マッチを擦って火を点けた。腹の痛みも忘れさせてくれるほどの濃い煙が肺一杯に詰め込まれ、頭の中にニコチンがしみ込んでいく様を感覚しながら吐き出した。
「で、仕事はいつから」
「さっそく。その前に風呂に入りたい」
「よう相棒、そういうもんは、向こうに行く前にするもんじゃないかい?」
「いいさ、このままの方があいつらに香ばしい臭いを届けられたろう。ざまあみろってね。あー上官殿、上官殿」
《なんだ》
 未だに機嫌の悪そうな声音で応答。まぁ、もちろん盗聴していて、今の言葉も聞いているはずだから、憤慨するのも無理もないだろう。でもそのことを告げる事は出来ないので、苛立ちは倍増しているわけだ。ざまあみろ。
「風呂に入りたいんですがね」
《監視員を向かわせる》
 言葉短かに通信切る。ブツッと音共に三秒もしないうちに監視員のご登場。すぐそばで私を監視している事がバレバレである。お早い登場にタバコ(ピース) はまだ半分以上残っていて、監視員に肩を竦めてやったら眉をひそめて私が吸い終わるのを待っていたものだった。ざまあみろ。
 ともあれ、私は監視されながらも―つまりは一緒に風呂場に入ったわけだが―風呂で体についた垢も頭のフケも綺麗さっぱりだ。
「さっぱりしたかい?」
「ああ、表面は、ね」
 頭をタオルで拭きながら、渡された安物のジーンズと真っ白なシャツを着る。まるで八十年代のファッションだなと思いつつ、これまた渡された水のペットボトルを一口飲んだ。缶からタバコ(ピース)を引き抜き、火を点けた。
「さて、相棒。どう仕掛けるよ」
「そうだな……相手は難攻不落、万里の長城の鉄壁の防御がある。普通にやれば何もできないまま終わるか、そのまま見つかって駆逐される。遠回りして、少しずつ近づいて行くのが吉かな」
「どこを経由するよ」
「ありとあらゆる場所」
 彼が黙り込んだ。ともいうのも、私の考えはこの基地におさめられた、あらゆる場所のパスを使って限界まで迂回することにある。それを察して、彼は言葉を失ったのだ。これから自分がとんでもない世界旅行に駆り出されることに。
「久しぶりに旅行にでも出かけてきなよ」
「やれやれ……楽しい旅行にはならなさそうだぜ」
 私はコマンドプロントを起動し、この基地におさめられたあらゆるパスを引き抜き始める。もちろん、こんなやり方も許可はされていないから後でなんて言われるかは分からない。が、もう何でもいい、という感情に私は陥っていた。というのも、アメリカ政府のやり方が気に食わないのだ。どうせ、この件が中国にバレれば、アメリカ政府はこいつがやりました、と言って私をハーグの裁判にかけるだろう。もちろん、裁判では有無を言わせずに死刑であり、私の死によってこの件は有耶無耶にされるのだ。そのための盗聴器、そのための監視カメラである。私と言う存在が今まさに中国へとハッキンングしているという会話、動作を全て記録している。それを証拠として提出し、確定的要素を並べたうえで私の死を持ってこの問題へと踏み込もうとしているのだ。
 自由は犠牲の上に成り立っている。一人の死も、多くの死も、犠牲という言葉で一区切りにされ、生を叫んでも政治と言う波間に呑み込まれてかき消され、私達の意志は潰えていく。誰にも認められる事もなく、まるで自分の国での出来事なのに世界の裏側で起こった小さな事件のようにして消えていく。
 ジョン・F・ケネディが暗殺された。国は騒然となった。
私は国に利用されて殺される。誰も知らない。
どっちが暗殺なのか分からなくて吹き出しそうになった。
 いわゆるスパイスなんだな、と私は思った。カレーに使われる香辛料のように、こうした表だった事の中には刺激的な行動がなければ事態は惹き立てられないのだ。口に入れた時の香りが、私だ。世界という口がこの中国とアメリカの間にそびえる対立をメディア等で形式化(食)べる時、情報戦のほんの微かな得られたデータの一部分に私と言う存在の痕跡が初めて世界中の人間に認識され(香)る時なのだ。
 それも良いか、と私は思う。流れ生まれる文字の羅列の中に自分という存在の痕跡を残すなんて、まるでSFじゃないか。
「目の前に、とんでもないSFがいるんだけどな」
 『彼』という存在が、私だけでなく『彼』自身に何を与えてきたのだろう。現実世界とは異なる世界に生き、別世界を目にして、別世界の生物と会話して、何を思うのだろう。
 人類の歴史が闘争の中にあった。今でさえ、私はアメリカの野心の渦に引きずり込まれて逃げられないままで、中国へとアクセスしている。覇権国家たる所以、政治、経済、軍事力を持ちえた国の、威厳を保とうとするあがきの中で私達は生きている。そんな中で、生まれた『彼』は私と共に静かなる泥沼合戦に身を投じている。『彼』は生まれながらにして、『物』であった。形而上の存在である事を前提に、『物』としての利用価値を全面的に活用されている。その事に『彼』は気づいているだろうし、今もこうしてその利用価値を活用されている。
 ディスプレイにcompleateの文字が並べられる。パスの収得が完了したのだ。

Comment: 0   Trackback: 0

08 14 ,2011  Edit


Back to top


Category: ネタ   Tags: ---

なーんとなく4

ちょいと前なーんとなく3の記事で書いてて、色んな事を思いついた。あの記事で書いたとおり、まったく喋らない主人公を書きたいという事。これは、感情移入しやすい云々ではなく、主人公の表情や感情を抽象的に書くことによって読者独特の主人公を描いてもらう事が第一の目的。

前に書いた『喋らない主人公ってなんか感情移入しやすいよね』というのは、映像だからできる事じゃないかと思い返した。じゃあ、文章で主人公の姿を明確に記述しない事で、読者に提供できる事はなんなのかと考えると、自分独自の主人公を描けるという事だ。固定されていない髪形、固定されていない顔立ち、固定されていない身体、固定されていない身長、固定されていない声音。そこに読者独自の好きな主人公をあてはめて行く。それってなんか楽しい。
 さて、デメリットにかんしてだけれども。ちゃんと行動とかを描写できるかどうか、主人公の行動描写、心情描写をどう描くかである。この事に関しての解決策として、別人格を導入する。そして、一人称で書く。何故三人称で無いかと言うと、テーマを人格という存在に当てたいから。

人格についてほんの少し調べてみたら、やっぱ本来の人格が大事だから治療という方式が多いよね。中には主人格(本来の人格)以外を殺す、という方法でも治療が行われていたという。それを読んでピンと来たわけだ。人格に人権は何のかと。そりゃまぁ、一人の人間から生まれた『架空』の人格、人間の防衛反応から生み出された一つの『機能』だからなのかもしれない。けれど、人格と言えるほどなんだからそれはまるで人のように行動するわけだ。人間の身体機能を同じように扱えるわけだ。そこに、生命倫理はないのか。(あったらめちゃくちゃややこしい事になるんだけど)

なーんとなく2で書いたように、少しだけ『バイオポリティクス』に関して勉強してた。まぁ、興味本位だけど。その内容は、四つあるんだけども僕はフーコが提唱した、種に関する管理と利用について興味があった。
で、だ。そこで思いついたのが、

本来の人格よりも融通が聞いたり、頭が良かったりする人格の存在例があったりする。、その人格を軍事やら政治やら、何かの目的のために本来の人格が殺されて利用されしまう事が増えれば『バイオエシックス』の枠を超える問題となる。ここで、『バイオポリティクス(フーコの種の側面を排除=存在自体の管理、統制、利用)』的考えが適用されるようになる。
 それが電脳空間に入れる事が出来る様になった代価であり、考えて行くべき問題。

みたいな、ね。何が、ね、だ。 

話としては、そういう問題が浮き彫りになり始めたから『バイオポリティクス調査委員会』が発足している世界で、主人公の中にも別人格が生まれる。その原因として没入している際の事故の時にみた人影を追う事となる。

みたいな、ね。だから何が、ね、だ。

なんかメモガキみたいな記事だなおいwww あ、ここは主演はキアヌ・リーブスということで一つ。支離滅裂乙。

Comment: 2   Trackback: 0

08 12 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

6

「で、私が連れてこられた理由は」
 酷く喉が渇いた。水の入ったプラスチックコップを手に取りながら、かすれた声で、ここに居たくない衝動から本件へと踏み込む。
「君に仕事を任せたい」
あまりに衝撃的な言葉に目を剥き、手から力が抜けて、持っていたコップを落とした。パシャ、と水がこぼれ、質素な灰色の絨毯を色濃く染める。
「なんで……なんで私が」
「君の能力を買って、だ」
 トーマスは指を重ねて口を隠すようにし、身を乗り出し、肘をテーブルについた。
「君も、自分の立場は分かっているのだろう。君は既にサイバー部隊の一員だ」
 奴隷だ、と叫びたかったが、私はこらえる。
「そこで、君に独自の『任務』だ」
「サイバー部隊の人員なら沢山いるでしょう。あなたこそ、私の立場を分かってらっしゃるはずだ。私は犯罪者だ、この国の重要機関へと忍び込んだ」
「だからだよ」
 私は、声に詰まった。トーマスの言葉が私の身を引き裂くように感じられ、まるで喉を掻っ切られたかのように喉からは空気が漏れた。
「もちろん、君の立場はよく理解しているつもりだとも。だからこそ、君にしか任せられない任務だ」
 使い捨てる、ともとれる言葉に私は怒りを覚えた。しかし、ここで暴れればそれこそどうなるか分からない。まだ生きる事を許されているうちは、生きていたい。そんな理不尽な状況が私を怒りの渦へと引き込んで、離す事はなかった。顔に出さずことはせず、静かにトーマスの言葉に耳を傾ける。
「君に調べてほしい事がある。中国の網軍、というのは知っているか」
「……ええ」
 話は聞いたことがあった。総参謀部第3部の傘下にあり、実態は不明な点が多い。規模は数万人にも及び、北京の情報保障基地、広東省の網監軍司令部、海南島の陸水信号部隊などを中心に活動しており、構成員は主に様々な研究機関に属する技術者、研究者と言われている。
「その根幹の、技術偵察部へとハッキングしてほしいのだ。我々の調査では、そこに情報集合体(インフォメーションクラスタ)が構成されていて、各国の盗んだ情報からやつらの重要な機密をも保存していると聞く。これを君に」
 と言ってトーマスが役員の一人に目配りする。誰かが近づいてくる気配がして背後を見ると、手に書面の資料を持った、スーツの男が経っていた。私がそれを受け取ると音もなく元の位置へと戻っていく。
 書面に目を通すと、網軍の暫定的基地が記されていた。
「信頼できるものなのですか?」
「ああ、腕に自信のあるハッカーだった……」
 そこでトーマスは口をつぐんだ。私は瞬時に察した。これを記したのは、先の作戦時に捕まったハッカーなのだと。
「ここからソマリアに関する情報を引き抜いてこい、と」
「話がはやいな。その通りだ。中国が、何故ソマリアに目をつけたのか、この戦闘に介入する意味を知りたいのだ」
 嘘だ、と私は確信した。中国は大きな軍事力を持つ国家だ。重工産業が発展している今、軍事力、兵器を彼らに売り出している事は容易に想像できる。意味などではなく、彼らは確信が欲しいのだ。作戦の妨害に対する追求を望んでいるのだ。なるほど、アメリカが覇権国家だといわれる所以が何となく分かった。
「重要な事を見つけたら、アメリカは正義をくだすと思いますか?」
 私は聞かずにはいられなかった。周りの空気が凝り、緊張の糸が張り詰められたような雰囲気となった。誰もが私へと咎めるような視線を向け、今にも罵倒しそうなほどの感情の膨れ上がりを見せている。トーマスは静かに目を閉じ、一文字に閉じられた口を、重々しそうに開く。
「私の口からは何も言えない。君には期待している。以上だ」
ふと、私はトーマスの目に何かが映り込んだように感じた。それは瞼を閉じる寸前の一瞬の出来事。彼の目に、一瞬でも哀愁の色が滲んだことを私は捉えたのだ。
私と上官は退室を促され、重苦しい空気の中、退室した。二度とここに来る事はないだろう。それは生きてなのか死んで、として思ったのかは自分でもよく分からなかった。

Comment: 0   Trackback: 0

08 11 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

5

 私が連れてこられたのは、国防総省(ペンタゴン)の一室である。ここまでにたどり着くまでに、沢山の認証ゲートを通ってこなくてはならなかったので、私は既に疲れてしまっていた。会議室が集合している場所へと進むと、それはそれは御大層なネーミングの会議室がずらりと並んでいた。ここで世界に対する『手段』を話し合われているのだと考えると、私はとんでもない場所にいるんだなと苦笑いが浮かぶばかりだった。
「ここだ」と上官殿が告げたドアにプレートが吊り下げられていて、曰く。
 ―――ソマリア情報集約会議。
 私が連れてこられた理由がよく分かった。ここ二日風呂に入れさせてもらっていないし、服ももう四日も変えていないから、汚らしいのに大丈夫なのだろうか、と思いながらも自分の気にするところじゃないかと考えなおして、指定されたデバイスに掌を押し当て、認証を完了する。
 入室すると、それはそれは壮観な眺めであった。一斉にこちらを向くお偉いさん方の注目を浴び、私は卒倒しそうになった。
 空いてる席へと促され、座らされる。隣りに上官殿が座ると、ある男が立ち上がり自己紹介を始めた。男は国防情報局(DIA)の国防次官だそうで、ホルト・ブライアンと名乗った。彼は全員へと一瞥をくれると、部屋を暗くした。壁面スクリーンに一人の男の写真が映し出される。
「こちらは先の作戦で拘束に成功したイスラム法廷会議アル・シャバブ派、最高指揮官のモハメド・ユースフです。大統領襲撃を直接的に指揮し、独立宣言および、暫定連邦政府への宣戦布告を行いました」
 画面は切り替わり、続いて映像が流れ始めた。どうやら、モハメド・ユーフスとのやりとりらしい。
 映像はいたって穏便なものだった。大統領襲撃、独立宣言、宣戦布告を行った人物とは思えないほどに落ち着いており、自分が拘束されていることを自覚していないかのように静かに受け答えしている。
 私が衝撃を受けた事は間違いなかった。帝国主義的な考えを持つ者は、資本主義に対してもっと反発的な反応を見せると思っていたからだ。それは、世界の暴動を見て分かる様に、帝国、共産主義的な民は資本主義を嫌悪し、牙を剥き、わめきたてるイメージが常に付きまとっている。
 だが驚いた事に、モハメドは時折静かに笑うのである。それが挑発なのか、余裕なのかは分からない。先進資本主義の尋問の在り方がジュネーブ条約に則り、暴力は一切行われない事を知っていたとしても、焦りも悪意も何も感じられない純粋な笑顔が垣間見える事は異常と言えた。映像が止まり、明りが点けられ、ホルトが立ち上がる。
「映像は以上です。彼にはヒズブル・イスラムとアルカーイダとの関与の疑いもあり、調査中です」
「引き続き、調査を」
 と、熊のような巨躯の男が言う。どうやらこの会議の議長らしく、手元に置かれたコップの横のプレートに『国家安全保障局(NSA) トーマス・ハリソン』と書かれていた。細められた眼は射抜くように鋭く、威圧に満ちていた。ホルトが礼をし、座る。
 さて、と彼は言い、私へと視線を向ける。
「君は、この作戦に対サイバー戦人員として活躍したと聞いている。君の活躍は素晴らしいよ」
 彼は微笑んでそういうが、目は笑っていない。その緊張感が身に染みていくようで、私は声も出せずにただ礼をする事くらいしかできなかった。
「我々の国の中に、攻撃を仕掛ける者を見つけてくれたのも君だと聞く。そいつは無事逮捕できたよ。処罰もじきに決まるだろう」
「一体、どんな……」
 私は恐る恐る聞く。
「国家を危険にさらしんたんだ。重い刑になる事は間違いないだろう」
「私みたいに、サイバー部隊の人員として組み込まれる事は……」
「ないだろう。君と彼が違行った事は違う。君は、確かにハッキングという犯罪を犯した。それも、国防総省(ペンタゴン)という国の重要機関に。しかし、君はそこまでだ。情報を盗み、それをどこかへ露呈する事も、サーバーを攻撃し、機能を停止させて国を危機にさらす事もなかった。だが、彼は違う。作戦を阻害したうえ、部隊だけでなく国家を危機へと落としめようとした。彼の罪は重い」
 国家反逆罪ともなれば、死刑は免れないだろうと付け加えた。私にはそれが、自分も同罪であると告げているように聞こえた。度合いが違えども、行為そのものは同じ。そして、私は合点が言った。何故、私がフォートミード陸軍基地に押し込まれ、そこで生活しなければならないのかを。自分の現実での鈍感さ、楽観さに思わず苦笑が漏れた。もっと、早く気づくべきだったのだ。軟禁されている上に、利用されている事に。もちろん、利用されていることには気づいていたが、私は処罰される事もなく、生きながらえているし、生活に支障をきたすどころかなかなか有意義に日々を過ごしていたし、退屈な日常とはかけ離れた、緊張感のある日々に従属している事に満足していた。
 私の知らないところで、きっと処罰はあったのだ。おそらく、私がここから逃げ出そうとすれば、私がこの『仕事』を断固として拒否すれば、次の段階の処罰が下される。

Comment: 0   Trackback: 0

08 11 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

4

《この事は私から上司に報告する。決して口外、もとい露呈するな》
 上官殿の凛然とした声が告げる。敵の中に私達と国を同じにする者がいて、この作戦の邪魔をしてきた事はやはり上官殿も息をのんだ。しばしの沈黙の後、彼はこう言った。
《本当なのか》
 信じられない気持ちも分からなくはないが、れっきとした事実だった。私が無言でいると上官殿も理解したらしく、通信を切った。
「おもしろくなってきたもんだ」
 と彼は言う。彼からしてみれば、この世界の事なんてどうでもよくって、映画でも見ているような気分なのだろう。
「ソマリアと中国、か」
 タバコ(ピース)の副流煙がゆらゆら揺れるのを眺めながらそんな事をつぶやいた。そこに繋がりなど一つもないように思える。過去の歴史を彼に集めてもらって見てみても、ソマリア海賊にほとほと困った国の一つである中国がソマリア海域に海軍を送り込んだことくらい。経済支援や、外交関係に関連する資料を見つけ出す事は出来なかった。
「眠れる獅子、重い腰を持ち上げる、か。そろそろ、動くんじゃねぇか?」
 と彼は意味深な事を言う。私はどういうことだと聞くと、彼はしばしの沈黙の後、こう切り出した。
「奴らはこうなる事を予見していたのさ。産業革命が起こるずっと前、サイバー空間が、いや、ネットワークが生まれる頃からな。なぁ相棒、なんで中国があんなにネットを規制するか、分かるか?」
 私は少し考えてから、
「国としての威厳を保つ意味もあるんだろうが……」
 とありきたりな答えを出した。彼はそれもある、と付加的なニュアンスを込めながら言う。
「作戦を考案し、それを実行に移す際、もっとも考慮しなければならない事は」
「情報の露呈を防ぐこと……つまり何か計画を立案していた、と」
「さて。一体どんな機密が漏れる事を恐れたんだと思う?」
 私にはわからなかった。そもそも、中国という国がどんな歴史の上に成り立っているかという事さえも知らないし、関心もなかったから、ハッカー時代の『中国はヤバイ』という事くらいしか印象にないのだ。その、ヤバイ、というのはなんなのかも当時は分かっていなかった。私は肩をすくめてタバコ(ピース)を口にくわえた。
「そいつはな、中国台頭時代を築くことさ」
 そんな突拍子な返答に私は吸いこんだ主流煙が食道へと入り込むのを自覚しながら咳込んだ。思わず涙ぐんで、嗚咽する。
「じょ、冗……談、よせやい」
「いやいや、冗談じゃあないってな」
 笑うでもなく、馬鹿にするでもなく、声そのものはいたって真面目そのもの。合成音声のなめらかさでつやのある、人間味の帯びた声音が本気だという彼の言葉とは裏腹に、嘘っぽく聞こえる。
「なんだって、中国が台頭だって? どこからそんな言葉が出てくるんだ」
「よう相棒、昔ハッカーだったなら知っているだろう。『中国はヤバイ』ってぇ言葉」
「ああ……知っているが、だから?」
「そいつはなぁ、そういう事なのさ」
「どういうことだ」
「中国の時代ってこった。奴ら、何十年も前からこの機を狙ってたのさ」
 大量に舞い散り、ズボンに降りかかった灰を振り落としてチェアに座り込んだ。
「ソマリアの作戦はな、相棒、仕組まれてんのさ」
 私はタバコ(ピース)をもみ消し、youtubeへとアクセスする。少し音楽を聴いて落ち着きもしなければ、彼の言葉が何か私を縛り付けそうで怖くなったのだ。
「仕組まれてるだって? 馬鹿な、あの大統領襲撃は世論の結果だぞ。市民がイスラム法廷会議アル・シャバブ派を支持し始めて起こった、最悪の事態だ」
「ああ、全くに。市民がまさかイスラム法廷会議アル・シャバブ派を支持するだなんて誰も思いやしなかっただろうな」
 そのへらへら言葉が、私に疑心を生ませた。
「……まさか、市民を動かしたのか」
 しかしどうやって、と自分の言葉を問いただす。彼は何も言わない。彼はただ、この部屋に取り付けられた監視カメラから、盗聴器から、このPCに取り付けられたカメラから私を観察しているだろう。私の混乱する姿を楽しんでいるのか、それとも、共にこの問題について考えようと歩み寄っているのか、定かではないが。
「お前は……何を知っているんだ?」
「知るべき事を」
 私は今まで、疑いもしなかった事を疑おうとしている。この目の前にいる、彼が、何者であるかを。本質的な事は理解しているのだ、彼が人工知能(AI)である事は。しかし、彼のいわば人格、記憶(ログ)を持ちえた、人間と会話のできる初めての人工知能(AI)という、『彼』についての理解は何一つ出来てはいないのではないか、という『彼』に対する疑問。
「知るべきことって」
《おい、何を一人でしゃべっている》
 とイヤホンから上官殿の声が聞こえる。気づけば連絡用無線のランプが点いていた。彼はなりを潜めて、黙り込んだ。まるで、答えをお預けにして逃げ帰る道化師のように。

Comment: 0   Trackback: 0

08 10 ,2011  Edit


Back to top


Category: ネタ   Tags: ---

なーんとなく3

 訊いてくれないか。私の告白を。そうすれば私は幾分か楽になれそうな気がするんだ。気休めだと分かっていても、誰か告白し、誰かに問い、誰かに答えてもらわなければ私は自分のした事への疑問という重圧に押しつぶされてしまう気がするのだ。
これから語るのは、私が生まれた事によって欠損を生じ、私と共に生きた男の物語だ。この物語を見て、貴方の中で何かが芽生える事を祈って。


 と、送られてきた手紙――というか皺くちゃな封筒に入っていた原稿用紙――の初めに、そう書かれていた。差出人の書かれていない封筒が郵便受けに入っていたのはこれが一度ではない。これで四度目だ。その内容はどれも同じで、皺くちゃな封筒の中に原稿用紙が三十枚から四十枚あたり入っていて、中身はなにやら小説のようで物語が描かれていた。私は別に、作家ではないし、そういう職業にも就いていない。私はかつて軍人として生きていた人間であり――軍曹だった――、退役してからは別段変りない生活をしてきた。妻はいるが、子供には恵まれなかったが、それでも幸せな日々を送っている。
 そんな中、封筒が送られてきたのはつい一か月前の事だ。差出人も書かれていない封筒を妻は気味悪がって、警察に届け出た。しかし、警察はなかなか取り合ってくれない。結局、私達はこの封筒を捨てる事にしたのだ。
 捨てようと決めた次の日、妻が外出した後、自室の机に張られていたメモ書きを見る。『引き出し二段目 封筒 捨てる』と書かれていた。そこで、私は二つの事柄を思い出した。一つは自分に記憶障害がある事に。二つ目は、先日、差出人不明の封筒を捨てると妻と決めた事。さっそく引き出しの二段目を開ける。皺くちゃな封筒が、いつもそこにある様にしてあった。皺くちゃが使い古しを思わせ、私が今まで使っていたんじゃないかという感覚に陥る。しかし、記憶――確信はないが――では確かに郵便受けに入っていて、見覚えのない、という感覚を覚えている。私は封筒を手に取り、封を開けた。妻には悪いが、この中身が何なのかが非常に気になったのだ。訝しげなものではあるけれども、どこか放っておけない、人間の好奇心というやつに負けたのだ。
 こうして、私はその封筒を今でも持っている。今、所持いている封筒は四つ。それぞれに送られてきた日付が書き込んであり、どういう経緯で私が所持しているのかという事も書き込まれている。妻には捨てていると言ってはいるが、実際はこうして所持している事に罪悪感はあるが、仕方がない。この物語が非常に興味深かったからだ。文章力はともかく、人を引き付ける何か、共感させる何か、魅力させる何かが詰め込まれているのだ。さらに言えば、軍事物で、私にはなじみ深いものだったからなのかもしれない。
私が若かったころはこんな物語を読んだ事はなかった。むしろ、馬鹿にもしていたほどだ。文章と言えば報告書ばかりで、物語性などは皆無の物。故に、こうしてゆっくりと物語を読むという事は私にとって幸せな事だった。読んでいる物がちゃんとした本だったら尚更よかったのだが。
妻の外出を確認すると、私は再び引き出しの二段目を開け、一番最初の封筒の封を開ける。こうやって、私は暇があれば何度もこの物語を読み返している。今度は、どこだったか、そうそう。第一章からだったか。何度も読み返していながら冷めない好奇心。胸に言葉に形容しがたい興奮と、楽しみが私にページをめくらせた。


 私が彼の中で生まれたのは単なる偶然からだった。私が私であると理解したのは、私が彼という存在を認識した瞬間だった。
 私という存在は、彼の中に存在するもう一人の私である。つまり、彼の中のもう一人の人格という事になる。詳しく言えば、それは間違いではあるのだが。二重人格が主人の現実認識を逸らすための存在であるならば、私は支える立場だからである。彼に現実を認識させるための、媒体なのである。そんな媒体でしかない私が何故、どうやって生まれたかは分からないが、確かにここにいるという事を理解しているし、世界を知覚している。彼が目にしている世界が見えるし、彼が耳にしている言葉も理解できる。
 そして、それを私が自覚した最初の知覚は、『私』がまっさらな清潔感たっぷりのベッドに横たわり、隣りに白衣を着た女医がイスに座っていて、何かを説明をしているところだった。
「フロッグ。落ち着いて聞いてほしい。良いわね? 貴方は、サイバー空間に没入した後、なんらかのトラブルでグレーゾーンに陥った。その際、脳死となったの。緊急蘇生は行って一命は取り留めた。けど、障害が残ってしまったのは君も周知のことでしょう。それで、没入者保護再生法に従い、貴方にナノマシンを注入させてもらったわ。これで障害は軽くなるとは思うんだけど、どう?」
 女は本気で心配してくれいるらしく、『私』――つまりはフロッグという男の手を取って優しく問いかけてくれた。しかし、フロッグは返事をしようとはしない。何かを言おうとして、口を開くけれど言葉が出てこないのだ。そこで、私は思った。それが、彼にとっての障害なのでは、と。それとともに、驚くべき事が起きた。いや、感じたと表現した方が正しいだろう。
 私の中に、別の感覚があったのだ。沸々と言葉が浮かびあがり、膨れ上がって溢れて行く。私はこれが、フロッグの意識なのだと理解した。しかし、彼の言葉は支離滅裂だった。質問に対する答えであるような言葉が形成されない。イメージは出来ているのだ。つまりは肯定か否定かという漠然とした答えはあっても言葉が形成できない。どんな発音だったか、どんな単語だったか、どんな形式だったか。思いを巡らせるも、一向に正しい単語が出てくる事はなかった。
 ――これが、障害。
「これが、障害」
「え?」
 フロッグが目を見開いた。私がはっとした。今のは何だ。私の言葉が、『私』の言葉となった。フロッグの口から発せられた。
「……そ、そうよ。貴方の障害は、運動性失語症。脳死した際、脳の一部が損傷、言語を司ると思われるブローカー野の損傷が疑われていたの。そこに、ナノマシンを注入したのよ。良かった、改善されたのね……一時はどうなるかと――」
 彼女の安堵を余所に、フロッグの視線は彼女には向けられず、足元へと落としたままだった。一体何が、という感覚が私の中に染み込んでいく。自分ではない何かが、声にしたという驚き、恐怖が身に染み込んでいく事だけが分かる。フロッグの中に渦巻く感情は恐怖に塗れていた。今まで味わってきた恐怖とは異なる、理解のできない恐怖。自分の中で何が起こっているか理解できない恐怖が、彼を覆い尽くそうとしていた。
「私は……行くわね。今は安静にして、きっと良くなるから」
 そう言って、彼女は立ち上がり、部屋を出て行く。それを視界の端っこで確認しながら私は私の中に渦巻くフロッグの感情との折り合いをつけようとしていた。
 私は、この身体の中にフロッグと私の意識が存在している事を理解している。しかし、フロッグは理解していない。それが、この感情の差なのだ。フロッグは私に支配される事を恐れている。自分が自分でなくなる事を恐れている。ゆっくりと、確実に自分の中に浸透し、行き渡り、自分という存在が曖昧になり、見覚えのある記憶と見覚えのない記憶が混同し、眠りに就くように、身体的とは対照的な精神の死を恐れている。それが、分かる。私には十分なほどに分かるのだ。フロッグの恐怖は私の恐怖であり、それが文字通り身に染みて感じ取れる。一方通行の流れだ。フロッグの感情は私には流れてきても、私の冷静さはフロッグには伝わらない。
 私はとにかく、フロッグが落ち着く方法を考えた。とにかく、この一方通行をどうにかしなければならない。けれど、もし今私が話しかけたらどうなるのかという結果は見えている。更に混乱を招き、彼を精神的に追い詰める事は明白だ。それ以外の方法で、私の意志を伝えなければならない。そもそも、私がフロッグの身体にコンタクトを送れても、精神に送れるかと訊かれれば私にも分からない。とにかく、フロッグがリラックスしている時に行動を起こさなければ、何をしでかすか分からない。そこで、私は彼が眠った後に行動を起こすことにした。夢の中で、語りかけてみようと考えたのだ。それが出来るかどうかともかく、何か行動しなければ、フロッグは恐怖に押しつぶされてしまう。それだけは避けなければならない。私はこの男になろうとは思わない。なりたいと思っていない。この思いは本物なのだ。それを、彼に伝えなければ。


 深夜、彼が眠った事を私は確認した。どうやら私は眠る事が許されず、こうしてフロッグの眠りを客観的に認識しているところをみると、私の意識はフロッグの脳とは異なる分野での活動なのかもしれない。それにしても、あれだけ恐怖していたというのに、今となっては何事もなかったかのようにすやすやと眠っている。なんというか、この男なら恐怖と上手く付き合っていけるのではないかとも思えるが、それでは私の意志がフロッグと疎通するかが不安になる。それ以上に問題なのは、恐怖になれる事だ。その上で自分を堅く保持するという事は、受け入れるとともに拒否する事だ。異常は異常だと割り切る事だ。そこに、過度のストレスが無いはずがないのだ。その結果、フロッグから生きる希望を奪いかねない。自分と異なる存在が混同するという事はそういう事だ。認めても、受け入れても、それでも自分を保持したいならもう一人を殺すか自分が死ぬかなのだ。自分の半分を奪われる事で生命感が希薄化し、生きる事の意味を深く考える。それが、希望になることなんてほとんどあり得ない。今の状態にくわえて鬱にでもなれば、自殺率が上がってしまう。私はそうなる事が恐ろしくてたまらない。私の生まれた意味を自ら絶ってしまう事が。フロッグが誰にも頼る事が出来ず、未来を見ないうちに命を絶ってしまう事が。
 私はフロッグへと語りかける事にした。彼に伝わる事を信じて。
「フロ……グ」
 と、声がフロッグから漏れる様にしてでた。出来た事と言えばそれだけで、結局私は夢の中へと入り込む事は適わなかった。私はフロッグの中の存在でありながらも、フロッグにはフロッグなりの情報を持ち、私とは違う情報として保有されるらしい。私は次の策を考え、あまりやりたくはなかったが、他人に私の存在を知ってもらい、彼に話してもらおうかと考えた。しかし、驚く事に身体を動かす事が出来なかった。身体を動かす権利はどうやらフロッグにあるらしく、私は混乱した。声を出す筋肉は私の意志または無意識で動かす事が出来るのに、身体を動かす事が出来ない。これでは、私の行動が制限されてしまう。いやそもそも。私は身体の動かし方を知らないじゃないか。私は意識ではあるけれども、生命ではない。それに、私はさっき自分で言葉にしたではないか。活動分野が違うと。私がある分野限定でしか活動できない意識であるならば、他の分野との連携をとれるわけもない。
 私は途方に暮れた。これではフロッグに安全に私の存在を伝えるすべが無いではないか。混乱を招くことなくフロッグに伝える方法はないのか? 私が出来る事は話す事だけだ。それだけだというのなら、フロッグに頼るしかない。しかし、別の意識に自分が乗っ取られる恐怖に耐えられるのか。それだけが不安だ。私はフロッグを死に追いやりたくはない。それだけは絶対だ。私はどうすれば良い……私は。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

何がしたかったかっていうと、例えばゲームで主人公がしゃべらないゲームってあるよね。例えば『聖剣伝説レジェンドオブマナ』とか『エースコンバットシリーズ』とか『アーマードコアシリーズ』とか。ああいうのって、妙に感情移入しない? そんで、凄く感動したりしない? そういったのを文章で出来ないかなって思ったわけ。つまり、主人公じゃない主人公を描いてみたかったんだわさ。っていうか、そういう部分全く書いてないんだけどねww

Comment: 2   Trackback: 0

08 09 ,2011  Edit


Back to top


Category: 未分類   Tags: ---

3

「来るぜ」
 彼が言う。たくさんのプレゼントを背中にしょってると。
「分散型サービス拒否妨害(DDoS)攻撃か」
 第三者にハッキングを行い、これに目標へと大量のデータを大量に送信し、過負荷を与えて機能を停止させるやり方だ。かつて、有名な企業、ソニーという会社がハッキング組織、アノニマスにDDoS攻撃を受け、更には一億人にも及ぶ個人情報が流出したという話は有名な話だ。
 それだけじゃない。それ以前にもサイバー戦は始まっていた。だから、アメリカはサイバー攻撃を戦争行為とみなすようになったし、陸、海、空、宇宙にくわえてサイバー空間を第五の戦場として認識した。イメージしにくいかもしれない。人の死ぬ場面を想像できないだろう。けれど、一つの間違いで重要な機密が引き抜かれ、用意周到に対策が立てられ、行動の一切が無に帰すという事を考えれば、それは一人の死の重大性と、大量の死を悲惨性をごちゃまぜにした、国の死が垣間見える。
「想定内だ」
「どうする」
彼が訊いてくる。
「誘導する。やつらを嵌めるのさ」
「できんのかい?」
「お前がいる」
「栄光の極み」
「やってくれるな?」
「任されて」
 予め用意しておいた疑似メインPCへのアドレスのリンクを、プレゼント(データ)をしょい込んだサンタクロースのルートに敷いておき、奴らを誘いこむ。そして、大量のプレゼントを、廃棄され、人類の記憶からも既に消えつつある企業のPCへと落としていく。そこに、喜ぶ子供の影がない事も知らずに。与えられた命令だけをこなす人形には、その事を理解できないだろう。そこに誰もいなくても、ただただ命令に従い、誰もいない家にサンタクロースが煙突から入り込み、煤を払いながら膨らみも何もないベッドの横にプレゼントを置いていく。なんとも虚しい光景だ。
 彼が罠を敷き、それに踏み込んだサンタクロースたちは一斉に矛先の向きを変える。去っていくサンタクロースを見送る―と言っても文字でしか表わされていないが―と、次の作業へと取り掛かる。
 IPの川だ、と思えるほどの大量のアドレスが私のディスプレイに映し出された。その流れを遡り、源泉へと向かうために私はソフトウェアを起動させる。それこそ、私がDDoS攻撃のカウンターのために作り上げた物、分散型策敵ツールで、IPが通ってきた多数の道のりを辿る様にして自動追跡する代物だ。起動すると同時に表示されたIPへの逆算が開始される。解析結果は三十秒ほどで出て、いたって簡単な解析結果だった。その簡単な結果に、私は自分の背筋が凍りつくのが分かった。
「……全部中国だ。この戦いを、中国が見張ってる」
 その違和感に私は激しい焦燥を覚えた。世界各国から集められたはずのハッキング集団、もといサイバーテロ組織であるはずのブラック・バスの攻撃だと思っていた私は、この国名を目にして恐怖に戦慄いた。今ここで中国の名前が出てくるのはおかしくはない。おかしいのは、DDoS攻撃を行った全てのアドレスが中国だった事だ。
 中国がアメリカに攻撃を行うこと自体は少なくはない。かつては国防総省(ペンタゴン)へのハッキングを行い、データを盗むという行為まで行ってきた国だ。だから、このこと自体には違和感はない。しかし、状況が状況なだけに、この行動が何か重要な意味をもたらすのではないか、ということに私は恐怖した。私の知らないところで、何か大きなものがうごめいていて、一つ間違えれば綺麗に奈落の底へと落ちていく、そんな事を感じていた。
「珍しくもない、中国からか」
 彼が陳腐にそんな事を言うもんだから、私は少しばかり安堵して息を吐いた。
「気ぃつけた方がいい。眠れる獅子ってのはこえぇもんだ」
 そんな彼の声が、妙に真剣めいていた。実際は合成音声だから感情のこもっていないなめらかな声だったけれども、ファンの回る音だけが響くこの部屋で、ましてこんな状況でそんな言葉を聞いたらまともに受け取るしかなかった。
「一枚噛んでる、と」
「分からん。が、攻撃を仕掛けてくるところを見りゃあ、何かを隠していると思うが普通だ」
 沈黙が降りる。陰謀めいた何かが、私の前に降り注ぐようだった。思考が停止したのが客観的に分かった。
 大きな産業革命期を迎え、経済的にも技術的にも飛躍的に進歩した国は、かつての影を打ち消すほどの輝かしく、眩い黄金期を迎えていた。それでいても、彼らはそれまでのネット規制を緩める事はなく、ある意味ネットワーク上の鎖国状態に陥っていた。情報発信する際には検閲がかかり、国のイメージ、秩序、法律が乱されるような情報ではない事が確認され次第、その情報はネット上に掲載される。つまり、そこには情報の自由がない。全ての情報は国によって管理され、国にとって有利な情報だけがネット上に掲載され、情報の正確性が失われた、いわゆる濁りきった情報とも言うべきものだ。
そんな規制があるからこそ、中国という国は他国からの侵入を許さない。著しく強化されたサイバー戦部隊は他国からの侵入を防ぐだけでなく、そのカウンターこそが脅威であり、他国を驚かせ戦慄させる。眠れる獅子、とはこのことだ。眠りを妨げられた獅子は猛然と敵意を向けるものへと向かい、その喉元を食いちぎる様にして相手の情報をもぎ取ってくるのだ。
《イスラム法廷会議アル・シャバブ派の代表を捕獲》
 部隊からの通信。ディスプレイに映る地図を見ると、部隊が確保後の目的地へと向かい始めている。
《よし。サイバー部隊はこのまま支援を》
 私は首を振り、さっきまで考えていた事を頭の中ら排除し、作戦へと集中する。やがて、作戦は成功。部隊は無事帰還する事に成功したのだった。

Comment: 0   Trackback: 0

08 08 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

2

 作戦開始の暗号(コード)であるイレーネが叫ばれ、全部隊が作戦通りに動き始める。私もサポートのために、ワイヤレスイヤホンからマイク付きヘッドホンへと模様替えだ。
さっそく私はアメリカ衛星から送られてくる情報、とくに人体に内蔵されたマーカーの発する電波を割り出し、地図にあてはめ、戦場がどのように動いているかという状況の地図を即座に造り出し、映像として作戦司令部へと送る。衛星から送られてくる情報はところどころジャミングの影響もあって汚い。そのノイズ洗浄を他の奴に任せて私は次にソマリアへの変電所へとハッキングを仕掛ける。さすがに、ここにはガードの堅い対侵入電子プログラムが地雷(マイン)のごとくふんだんに敷かれており、一つでも間違って踏めばこちらのあらゆるデータがダダ漏れになる。そして、私はその場所に踏み込んだ。途端、画面の左上にブラックディスプレイが映し出され、とてつもない速度でデータが引き抜かれていく。
(これで良い……)
 今流出させているデータは架空の物で、ある特定のプログラムも組み込んである。勘の良い奴ならその違和感に気付くだろう。だが、そいつを下手に触っちまえば、今度はそっちが痛い目を見る仕掛けだ。私の本当の狙いは、監視カメラの管理を行っている企業だ。今、作戦が行われている地域の監視カメラは全て向こうの手の内にある。それを全て機能停止ないしはこちらの物にしてしまえば、状況は確実にこちらへと傾く。しかし、相手もそれを分かっているだろうから、私はあえて重要地点である変電所へのハックを仕掛け、そちらに注目を集めさせておいた。
 案の定、こっちのプロテクトプログラム(PP)は安っぽくて、人手も少ないのか簡単に抜ける事が出来た。あとは侵入パスワードを〇.三秒ごとに切り替える様に設定して、時間を稼ぐことにする。監視カメラの機能を停止させた。これでアメリカ軍の動きを把握する事は難しくなったはずだ。が、それでも地の利は彼らにあるのは明白である。
 私は、部隊のあらかじめ取り付けられた小型カメラと監視カメラの映像を地図にあてはめ、立体地図を描いてもらえるよう仲間―今の状況では―へとその情報を送る。――と。
《キイアアアアアアァァァアアアアイイイイ!!》
 とまるで女の断末魔のような叫び声がイヤホンから耳を劈くようにして上がった。私達の扱う軍事的周波数を読み取られ、ジャックされたのだ。
 《何事だ》
 と上官殿の声。即座に切り替えられた周波数によりノイズなし。
「回線をジャックされた。取り戻す」
 地図に赤い点が点滅し始めた。仲間が撃たれたのだ。この手のジャックの意味は、連絡を絶つことの意味以上に、精神汚染の意味も込められている。戦場にいる彼らは過度な緊張、興奮状態にある。しかし、戦場とはそのようなものであり、戦い慣れている者なら最低条件であるこの状況下では戦闘に支障をきたさない。しかし、いつも以上のストレスを与えられるとどうなるか。それが命取りとなるのは明白。
 さらに皮肉なことに、その回線は戦略的回線で、顎の骨に取り付けられた微細骨伝導イヤホンを利用するもので、イヤホン自体を取り外したり出来ない。つまり、長時間あの甲高い断末魔を聞き続ける事となる。それが彼らに悪影響でないはずがないのだ。
「どこから……」
《キイアアアアアアァァァアアアアイイイイ!!》
「よお、相棒。IPだ、とんでもないところからの御来客だぜ」
 彼がそう言って見せてきたのは、たしかにIPのそれだった。そのIPに大きな違和感を持たずにはいられない。
「ソマリアからじゃない……。このアドレスは……中国のだ」
 ブラック・バスは世界各国のハッカーを集め、世界規模のサイバーテロをなしている。なら、IPが中国でも妥当な訳だ。
 IPがこの場所までたどり着いた足跡を、見落とすことなく、忠実に追いかけていく。足跡を踏みにじる様にして相手へとにじり寄っていく。国境など関係ない世界を縦横無尽に這いずり、駆け抜け、泳ぎ、飛んでいく。
「……見つけた」
 そのIPの住所を割り出し、軍事通信衛星からのデータを照合し、その地区の市役所へとハッキング、そこがどんな場所かを盗み見る。一軒家、三人家族のいたって普通の民家だった。
「ハッキング痕(スティッチ)だ」
 彼はそういうと一人でにそのハッキング痕へと攻撃し始めた。隠ぺいが甘かったのか、瘡蓋(かさぶた)のようにして隠されていたハッキング痕(スティッチ)が現れ、引き剥がしてその中へと彼は突っ込んでいく。あらゆる国のサーバを中継し、やがてたどりついた場所は、
「……アメリカ」
 この国だった。衝撃に目を見張り、一時的に手の動きが止まる。しかし、次の瞬間には無意識のうちに手が動き始め、ジャック犯のメインPCへと攻撃を図る。案外あっけなく攻撃は通り、相手からの攻撃は途絶え、回線が回復し、断末魔の主がついに事切れた。
「公表は」
 と彼は聞いてきた。
「まだだ。作戦終了後だ」
「了解(ラジャー)」
《よくやった》
 上官殿の褒め言葉。彼が、いや、彼だけでなくこの作戦に死力を尽くしている者たちが知れば、どういう反応を示すだろう。その場の誰もが自らの正義を信じて、戦いに赴く中、敵中に自分たちの国の者が支援しているという事実を、彼らはどう受け止めるのだろうか。
《ESM支援を開始する》
 その合図を境に、自軍のサイバー部隊が一斉に支援を開始する。部隊の人間の戦闘服に取り付けられた小型ESMによって電波妨害(ジャミング)を引き起こす。さらに、作戦中にところどころに設置された携帯型組み立て式ESMの存在により、ジャミングの範囲は広がり、作戦を有利に進める事が出来る。

Comment: 0   Trackback: 0

08 08 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

1

 冷戦、という言葉は今でも世界の人々に知られる。旧ソ連とアメリカという大国が、戦争という表面的な対決ではなく海面下で戦闘を繰り広げた、かの有名な対決である。CIA、KGBの諜報合戦が繰り広げられ、冷戦が終結した今でもなおCIAはその存在を主張し、わずかな予算の中で現代に生き残っていた。冷戦の化石と言われるほどに堕ちた彼らは、再び息を吹きかえそうと躍起になっていた。諜報合戦は影をひそめ、その代わりに情報諜報合戦が繰り広げられている事が現代に生きる人のどれだけ知っているだろうか。
今日、表の世界では大統領がソマリアでの紛争への対策を雄弁にして語り、受け入れられ、国民に拍手を送られ、アメリカという国家が平和を維持する。しかしその裏では、常に戦闘が絶えずして続いている。
 アメリカがソマリアへと言及する原因はソマリアにあった。元々その地はイギリスの植民地だった。しかし、ソマリランド共和国として独立宣言をしてからは内戦が続き、それから多くの犠牲を払いながらも、ソマリアにはソマリア再解放連盟(ARS)が発足、指導者であるシェイフ・シャリーフ・シェイフ・アフマドの大統領就任、オマル・アブディラシッド・アリー・シェルマルケを中心とする内閣が小さな平和を維持していた。
 しかし、去年。イスラム法廷会議アル・シャバブ派による大統領襲撃により、その平和は切って落とされた。大統領は公開処刑され、イスラム法廷会議アル・シャバブ派勢力が再び独立を宣言。その難からエチオピアへと逃げおおせたシェルマルケが、国際連合にPKO部隊の派遣を要請した。
 一九九一年のモガディシュの戦闘の記憶をよみがえらせるような状況に、アメリカ全土に緊張が走る。かつて、目的は達成したものの、多くの犠牲を払わざるを得なかった戦いが再び起こるというのだ。
《我々は、負ける事を許されない》
イヤホンの向こう、上官殿の力強い声が聞こえる。その声音からは凛然とした意志と、緊張が感じ取れる。上官を前にした、兵士たちも同じ気持ちなのだろう、とぼんやり考えながら私は缶からタバコ(ピース)を取り出し、口にくわえた。
《そして我々は、生きて還る》
 もし、私に向かって言っていたなら意味が異なっていただろう。生かして還せ、と。
「ごくろーなこって」
 マッチの擦る音とともに燃え上がる火。熱が私の顔をほてらせ、やがて静かに消えていく。最初の一服目が肝心だ。その時の味が美味いか不味いかで今日の気分が分かる。今日のタバコ(ピース)は最高に不味い。くそったれ。
 私はブリーフィングルームの盗み聞きに飽きて、チャンネルを変えた。盗み聞きしようと思ったのもただの思いつきではあったが、もう二度としない。タバコが不味くなる。
 私は暇になってあるお気に入りのサイトを開いた。別にどうってことの無い、無料動画掲示板、youtubeである。そこで、ジョン・F・ケネディの暗殺シーンを繰り返し垂れ流し、その解説する男の声に耳を傾けていた。
「よお、相棒。こんなの見て楽しいか」
 と、彼は言う。その姿は見えず、聞こえるのは音声だけ。抑揚のついた滑らかな合成音が、十代そこいらの男の若者の声で語りかけてくる。
「楽しくないな。暇つぶしさ」
 私はタバコ(ピース)を吸う。赤く燃える色が一際明るくなった。
「よお、相棒。なんだってそんな苦い顔をしているのさ」
「タバコが不味いからさ」
「そんなもん、やめちまえ。体に毒だ」
「吸わなきゃやってらんないさ。これが俺の唯一の報酬なんだ。楽しみを自ら捨てるほど阿呆じゃない」
「自分の意志は捨てて、かい。俺でも、自分の意志はあるってのに。」
私はタバコ(ピース)をもみ消した。
「いいか、よく聞け。お前は確かに自我を持っている。けれど、人じゃない。分かるな? お前たちは人間じゃない、という事は人間と同じような感情や、考えを持っているわけじゃない。お前が人間と同じような思考回路を持っていてもお前は決して人間にはなりきれない。意志と感じるものは全てただの一つの思考(センテンス)でしかない。それは、お前が人工知能(AI)だからだ」
「怖いか?」
 私はその言葉に肩をびくつかせた。
「素直だなあ。何も恐怖するこたぁねぇのさ、相棒。俺の自我は生まれちまった。それだけだ。相棒だってそうさ、生まれた事に、後悔なんてないだろう?」
「あるさ。生まれてこなければ、お前の自我を生む事もなかったし、ここに来る事もなかった」
「それは、自分のした事への後悔さ、相棒。生まれた事とは何の関係もない、ただの言いわけさ。それに、相棒が俺に自我があると言った頃にゃ既に俺には自我が形成されていたわけだし、相棒に言われなくても俺は知らないまま自我を成長させていただろう。だからさ、相棒は何にも縛られなくていいのさ。俺の事を怖いと感じるのは、相棒が俺に自我を与えてしまったかもしれないって事だろう。そんなもんは相棒の独りよがりってもんだ。だから、相棒はもっと軽く飛んでみるべきだ」
「何が言いたい」
 私はまた、缶から一本のタバコ(ピース)を取り出した。
「簡単な事さ、相棒。やりたい事をやれ、ってことさ。禁煙よりも簡単なことだろう?」
「お前に、私がここに連れてこられた理由を話していなかったな」
「知ってるさ。戦わされてるんだろ、相棒。仕方ないだろう、とくに、ヤバイとこにアクセスしてたんなら尚更さ。殺されなかっただけ、マシってもんだろ。それにさ、この国は今、相棒みたいな人材が必要なのさ。教育の必要のない即戦力ってのが。皮肉なもんだよな、救うために技術をつぎ込んでやったってのに、その技術が奴らの力にもなっちまうなんてさ。そして、その技術は今や自分たちの技術を超越し始めてる。こんなことが世界にばれちゃあ面目もへったくれもないわけだ」
 ククッ、と独特の笑い声。私はタバコ(ピース)に火を点けた。
 彼の言っている事は真実だった。私はこれまで、幾度となくハッキングをしてきた。最初は悪戯のつもりだった。それが、知識や技術力を蓄えていくうちに、そりゃあもう大きな企業やら機関やらへとアクセスしていったもんだった。今思えば、若かったのだろう。IPアドレスをかっさらってしまえば私は誰にでもなれたし、ハッキング対策を通りぬけるときの快感が私は何でもできると思わせてくれた。その結果、私はアメリカ政府にとっ捕まったわけだ。その理由は、機密情報を盗み出そうとした疑いがあったから。実際、私は国防総省(ペンタゴン)へと仕掛けた事がある。別に本気で盗もうと思ったわけじゃない。ちっとばかし悪戯心で、そのファイルに細工でもしようかと思っていただけだった。結果的に私は捕えられたが、裁判にもかけられることなく、拘置所に送られる事もなく、身をこの場所に置かれる事となった。その理由は、ソマリアで大統領襲撃事件が起こって、大統領を護衛していたはずである連合軍が悉くやられたことに起因すると思える。鍛え上げられた連合軍がこうもあっさりやられるのはおかしい、とした連合は、彼らのネットワークに目を点けた。急激な成長は一方では経済復興の良い兆しだと喜ばれていたが、その裏では何か取引が行われているのではないかという疑いもあったからだ。
 CIAが向かい、得た情報はアメリカ政府を驚かせた。大規模なサイバーテロ組織――ブラック・バスと名付けられた――が存在し、その団員は世界各国で集められたものだと。つまり、ブラック・バスが連合軍の情報をどうやったのかはともかく盗み出し、ソマリアのアル・シャバブ派幹部達へと提供していた可能性が高いと判断されたのだ。アメリカ政府はいてもたってもいられず、これに対抗すべくサイバー司令部の情報対策部隊の強化に当たることとなる。その際、私も巻き込まれ――自分から踏み込んだ形にはなるが――、今ここにいるというわけだ。つまり、私にやりたい事があっても身動きの取れない状況。
「そして近々、その答えを出す時なのかもしれないぜ、相棒」
 今日、ある作戦が開始される。私もその作戦に参加する一人である。とはいえ、私自身は戦場に赴く事はない。いつもどおり、ここでタバコ(ピース)をふかし、深々とチェアに座り込み、PCの前でキーボードを叩くだけなのだが。
「おいおい、勘弁してくれ。俺にやりたい事なんてありはしないし、この戦いで見出せるとも思えない」
「思う思わないの問題じゃないのさ。生まれるか生まれないかの問題さ」
「お前は何を」
「つまりだ、相棒」
 まるで、相手を諭すかのような調子で彼は語り始める。説教垂れられるのなんて何年振りだよ、と呆れて目を閉じるも、いやでも彼の声が聞こえてくる。耳に瞼なしとはこのことだ。
「思うも思わないも、ある感情が生まれた時に感じる事なのさ。ベンジャミン・リベットの実験ってのは知ってるか? 人間が手を動かそうと決めた時にゃ、〇.五秒前に脳みそは決めちまってるって話さ。分かるか、相棒。人間てのは、何かを思ったり、決めたりする前に頭ん中で既に物事が生まれてるのさ」
「もう既に俺の中に答えは生まれていて、それに俺は気づいていないだけ、と?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれん。生まれていなくても、この戦いで生まれるかもしれないし、生まれないかもしれない。生まれてんなら気づくかもしれないし、気づかないかもしれない」
「分かるように言ってくれ」
「そうだな、つまり、生まれる事を、誰も止められないってことさ。俺の中に自我が生まれた事も必然だったのさ」
「無意識の先行……無意識から生まれるものは止められない、と」
「常に人の中には無意識からたくさんの情報が生まれ出てる。それを汲み取るか汲み取らないかは本人次第、または他人次第さ」
彼はもともと人工知能(AI)であって、ここまで自我を芽生えさせてはいなかった。では、何故これほどまでに人間臭く喋るようになったのか。詳しい事は私にもわからない。しかし、彼に自我を与えてしまったのは私である事は間違いない。彼と、タッグを組んで仕事をこなしていくうちに、いつの間にやら彼は生まれていたのだ。
 彼は言う。こっちにも世界があるんだ、と。聞かされた世界は、昔読んだ『ニューロマンサー』の世界に似ていた。色んな数列(シークエンス)や、乱雑に並べられた識別記号(サイン)がぶら下がっていて、空を覆い尽くしているという。地平線の向こうには闇しかなくて、またそれを距離として感覚できない。全てが数字というデータで物が存在しているから、常に不安定で、たとえばどこかの企業の倉庫のデータバンクはところどころ金属が禿げる様にして塗装が数字化しているという。
 そんな世界を、彼は生きてきた。人工知能(AI)という、脳の動作を真似ただけの存在、いわば、無意識の集合体(クラスタ)が詰め込まれただけの存在が、私の命令に従っていたわけだ。この世界を縦横無尽に、孤独に、生きていた彼が何故自我を持ちえたのだろう。それこそ、人間と情報と神秘の関わりに深く踏み込む問題であり、決して私なんかが理解する事など不可能だろう。いや、そもそも。私が彼に自我を持っている、と伝えた事によって、彼が自我を持っているような行動をとっているだけなのでは。それこそ、人工知能(AI)の行うもっとも効率のいい自我の理解の仕方では、とかなんとか考えているうちに、灰が服の上に落ちてきたので私は慌ててそれを払った。
《全ての部隊がソマリアへたどり着いた》
 右耳に上官殿の凛然とした声。私は彼との会話を切り、これからの作戦の事をただ静かに聞くことにした。もちろん、その作戦はとんでもなく重要な戦いになる事も分かっていたし、私にとっても重要な戦いにもなるかもしれなかったから。けれどそれ以上に、今は少し、彼の事から離れたかった。

Comment: 0   Trackback: 0

08 07 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

0

 電気さえつける事が億劫だと考えるような人間でも何かしら取り柄というものはあるもので、電気よりもPCを立ち上げる事を優先するところをみると自分は考える以上にPCに依存していると見える。とはいえ、それを生業にして生きていることもあり、常にPCが傍になければ自分が生きているのかどうかも分からない。そう思えるほどに私は今日の世界が作り上げた善意なる悪意を一身に浴びて、今日もまたこうしてPCの前に黒革のオフィスチェアに深々と座り込み、擦り切れてところどころ文字の消えたキーボードをせわしく叩いている。
 フォートミード陸軍基地の地下施設の一室、明りはUSBメモリの青光り、このあまりにも質素な部屋に取り付けられたファンから漏れる蛍光灯の光、そして私の目の前にあるディスプレイの明りだけの場所に住んでいる。ファンから途切れ途切れの光が差し込む様子を見て、私はタバコ(ピース)を噛んだ。お気に入りのタバコだ。このタバコは日本製で、わざわざ日本から輸入してもらっているものだ。どうもアメリカのタバコは好きになれない。私はタバコ(ピース)にマッチを擦って火をつけ、最初の一口目を楽しんだ。両端カットのそれは突き抜けるようなきつさで私の頭に染み込んできた。吐き出した煙のように、私の思考も一瞬だけ真っ白になる。この瞬間が私は好きだ。何も描かれていないまっさらなキャンバスが目の前にあれば何か書き殴りたくなるように、自分の中に何か刺激を叩きつけたくなる。
叩きつけたくなるもの、自分の中に刻みつけたいもの。そいつがなんなのかは、はっきりとしないけれど、私は求めている。哀願しているし、懇願しているし、追求している。
《首尾はどうだ》
 右耳に取り付けられたワイヤレスイヤホンから、音声解析ソフトが通信に混じるノイズをクリアし、音声ソフトがエレベーターガール顔負けの滑らかな口調で私に囁いてくれた。ちなみに声質は自分で調整できるので、男の声にでも女の声にでもできる。デフォルトであれば、男の声は男の声のまま、女の声は女の声のまま。声質も変える事ができ、男ならダンディーな声音から豪快な声音まで。女なら可愛い声音からセクシーな声音までよりどりみどりだ。ちなみに今の声の主は男であるが、私はあえて女性の声にしている。その真意は察してほしい。
「半分くらいかな」
 私はタバコ(ピース)を見やりながら答えた。また一口含み、吐き出すとともに報告。
「喜べ上官殿、あと三分の一だ」
《貴様、ふざけるな》
 透徹とした叱咤に私は笑った。冗談が通じない奴ほど冗談を言いたくなる性質なのだ。
《対侵入索敵プログラムの遮断が確認された。貴様、何をやっていた》
「御覧の通り。タバコ(ピース)をふかしていたわけだが」
 と、おおっぴらに手を広げて見せる。この部屋は私の部屋ではなく、プライバシーの言葉はどこへやら、確認できているだけで五台の監視カメラに私の生活は覗かれ、至る所に盗聴器が隠されているのである。ドキュメンタリーでも作るのかい? と訊いてみた事がある。貴様はやるべき事をやれ、の一点張りだった時は腹を抱えて笑ったものだった。
《すぐに片付けろ。貴様の使い道のない息子が消える前にな》
 といった風に、脅し文句にはちょっとしたユーモアをいれてくるあたりが憎らしい。私は笑いながら分かったよ、と上官殿に伝えながらタバコ(ピース)をもみ消した。
 ウゥーン、というPCの排気音だけが響くようになった部屋にはそれはそれは高性能のコンピュータが私のために置かれていた。これでも、熱に弱いコンピュータのために冷房まで完備されていて、住み心地は見た目ほどに悪くはない。すこしばかり狭いのが難点だけれども。その狭い空間に上手く溶け込むようにして私は座り、『仕事』を始める。
「戦う理由は見つかったか? 相棒」
 彼は、そう呼びかけてきた。PCの中でしか生きられない、存在(アバター)。
「理由が見つかったら、お前とはおさらばなのかもしれないな」
「そいつぁ嬉しいね。子供が親から離れる時の心境ってのはこんなもんなんだろうよ」
「情報だけで判断するのは、まずいんじゃないか?」
「おいおい冗談。俺は情報の中に生きてんだぜ? 間違っても情報なんかにゃ踊らされねぇさ」
「親が悲しむって事は考えないのか?」
私は早速ソフトウェアを起動させ、国防総省(ペンタゴン)へのハッキングを開始。パスワード認証をソフトウェアが引き抜いてきてパス、識別コードを偽装して、問題の場所へと穴をあけていく。
「さてな。相反する感情ってのは、どうにもまだ難しいのさ。それが、潜熱的な感情ほど、ね。言葉で表現はできる、が、それを感じる事は出来ない」
 次々と流れ出てくる情報を、的確に読み取っていく。少しでも間違えれば時間を食われ、相手に先を越されてしまう。ソフトウェアが必要な記号をピックアップしていく。
「それが、君の限界か」
「おいおい、そんな冷たい事言うなよ。これでも成長しただろう? なんせ、相棒が与えてくれた自我だ」
 相手が侵入しようとしている場所を特定する。その場へと通じる小路を即座に切り開いていく。無意識なままに私はキーボードを叩き続ける。
「……ああ、君の自我だ」
「信じられないか」
「そうじゃない」
「俺は嬉しいんだがね。こうして、相棒と喋ることが出来る」
 やがて、相手の侵入プログラムを阻むための道づくりが完了した。
「おう、速い速い。おれぁまだ準備もできちゃいないってのに」
「準備も何も必要ないだろう」
 と言って私は笑った。彼もまたククッと独特の笑い方をした。その声音は笑っていた。実際に彼も笑っていただろう。けれども、その笑いはあまりにも空虚すぎて、私はすぐに表情が消えてしまわないように努めた。
「じゃあ、行ちょっくら行ってくる。話の続きはまた今度」
 はたして、この時に本当に彼が笑っていたのかは私にはわからない。私は怖くてたまらなかった。彼を笑顔で送り出すのはそれ故だ。私が笑っていれば彼も笑っているだろうと信じたかったからだ。彼の顔を見る事は出来ない。全ては音声だけだ。よく出来た合成音だとしても、そこに人の持つ意志から来る声音を感じ取ることはできない。だから、私は怖かった。彼という存在が怖かった。

Comment: 2   Trackback: 0

08 06 ,2011  Edit


Back to top


Category: Dear Hacker   Tags: ---

Introduction

Dear Hacker



This is a message for you. If sympathy was obtained by reading this, it is my desire. I want you not to forget. My what should be and his what should be. And, what should be of the world.

It is good to send him the message if you want to change the world. Surely good advice for you is sure to be done.  If you have the will, he will also answer you.

―これは君たちのためのメッセージだ。これを読んで共感を得られたなら、私の本望である。忘れないでほしい。私の在り方を、彼の在り方を。そして、世界の在り方を。
 もし君たちが世界を変えたいと思うなら、彼にメッセージを送ると良い。彼は君たちのために良いアドバイスをくれるだろう。もし、君たちに意志があるのなら、彼は君たちに応えてくれるだろう。

Comment: 0   Trackback: 0

08 06 ,2011  Edit


Back to top


Category: 駄文   Tags: ---

次の記事あたりから

Dear Hackerをブログ小説形式で載せたいと思います。というのも、前の記事に乗せた形式はpdfでして一気に読める事、字が綺麗だし縦なので本感覚で読める事、ルビがその字に当てられるという点からpdfを利用していたのですが、まぁ気ままに読みたい場所だけ読める、という記事形式を撮ってみてもいいか、と思いまして。

いや、別に書く事が無いからこんな風にするとかじゃないんだからね。絶対だかんね!
という事で、稚拙な作品ではありますが、読んでいただければ光栄です。


 

Comment: 0   Trackback: 0

08 05 ,2011  Edit


Back to top


Category: ネタ   Tags: ---

なーんとなく2

「で、俺が呼び出された理由は? まさかアンタと世間話しながら昼飯を食うだけなんてのは、なぁ?」
 そう言って男はテーブルに供えられた制御卓(コンソール)の上に足を乗せ、組んだ。偽眼である左眼にかすかな光が点った。
「ああ、お前と昼食を食うくらいなら、ピザ頼んで一人で飲み明かした方がマシなものだ」
 言ってくれる、と男は内心で呟きながらも、相手――トーマスの表情に緊張が含まれている事を見抜いていた。古くからの付き合い、別の言い方で腐れ縁とも言うべき存在だった。
「で、話ってのは」
「お前も聞いているだろう。ここ最近、中東での独立、暴動、民族紛争が次々と起こっている事を」
「ああ。どうも胡散臭い噂が飛び交ってるな。聞いた話じゃ、世論を動かしてるとか何とか。本当か嘘かは知らないが、その扇動をしているの市民だってな。SNSを通して呼びかけて、運動を起してるとかなんとか」
「その通りだ。そしてそこで、奇妙な現象が起きているのだ」
 トーマスが男の足を睨みつけた。「おっと、失礼」と挑発するような声音で呟きながら足を退ける。備え付けられたキーボードで何やら起動させると、隣りの机に備え付けられた立体像映写機が起動し、幾つもの写真を表示した。
「ここは、ソマリアの政府軍と独立武装勢力との戦場となった場所だ」
 凄惨な光景だった。あちらこちらに血糊が張り付き、内臓がぐちゃぐちゃになって地に転がっていたり、血に固まった土が塊をなして粒となっている。建物は銃痕に塗れ、RPGが使われたのだろうか、大部分が欠損していたりして、とてもじゃないが生命を感じさせるものは何一つない。そこにいればきっと吐く自信があった。血の臭い、硝煙の臭い、肉の焼ける臭い、髪の毛の焼ける臭い、砂混じりの風に鼻に届く時、想像を絶する苦痛が訪れるのは一目瞭然だった。そんな写真がいくつも並べられている。
「どうだ? 違和感はないか?」
「……死体が無い」
 どの写真も壮絶な戦いの跡が叩きつけられるようにして残されていた。だが奇妙な事に、それだけの光景にも関わらず、死体が無いのだ。肉片はあれど、原型――少なくとも人であると認められるような――を留めた死体がどこにも写っていない。
「死体が写らないように撮ったのか?」
「いや、違う。死体が無いからこそ写したのだ」
「ここでどれだけの人間が倒れたかの推定は」
「おおよそ百。彼らの協力のもとに調べた暫定的な結果だが。おそらく全滅だ」
「戦闘が起こってからの時間は」
「約二日だ」
「……掃除屋か。珍しくもねぇな。家の掃除から戦場での遺体の回収までなんでもござれのやつらだ」
「だが、国は掃除屋には連絡を一つもしていないらしい」
「じゃあ、武装勢力が、だろ」
「それの意味するところは分かっているだろう」
 大げさに方を竦めて見せる。
「つまりは一つの契約をしているものとみられるってことだろ。武器が欲しいと言ったところ、遺体を寄越せとか何とか」
「そうだ。今や銃、重火器等の製造業は衰退し、今ではサイバネティクス産業、電脳産業が主流となってきた。銃や重火器を撃って資金とし、サイボーグ技術の研究に打ち込む事がおそらく、掃除屋の親玉の目的だろう。サイボーグ技術で一番の注目は脳のみを機械の身体に移植し、動かせるかだ。お前のように、一部分のサイボーグではなく、な」
 トーマスは男を見た。男の目は細められ、口には微かな笑みが浮かんでいる。小さな赤い点が眼の中心に灯り、その視線がトーマスの視線とぶつかる。
「正直、機械の身体に脳みそをぶち込んだところで脳みそがイかれると思うんだがな。双方の電気情報の規格が違いすぎるのさ。それを標準化させるナノマシンを組み込んだとしても、負担は大きすぎる。ナノマシンは常に破壊されるだろうから、常にナノマシンを注入しておかなきゃならない。そいつにゃ、莫大なコストがかかるはずだ。本来、一人の人間に注入されるべき量の何十倍も必要とするんだからな」
「だが、その実例は既に出ている。一人の男が、アメリカで行き倒れていた。親族も何も、彼が何処の生まれで何処から来たのかも分からなかったから遺体の受け取り手もいなかった。で、だ。エンバーミングを行ったところ、驚いたことに人間ではないじゃないか。何処を見てみても機械だったのさ。脳以外はな」
「……で、俺の登場ってわけだ。BPE(バイオポリティクス・エグザミナー)として。奴らに生命倫理を是非を問え、と。遺体にインフォームド・コンセントを行いましたか? ってか。脳移植してサイボーグを世間公表せずに作りだして、挙句の果てに放りだして死なせるような輩がまともに答えると思ってんのかい? 俺にどうしろってんだ」
「元凶を突き止められればいい。ハッカーとしても一流のお前だ。情報なんぞすぐに集まるだろう」
「簡単に言ってくれるな。ハッキングだって、見た目以上に骨の折れるもんなんだよ」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

またしてもネタである。今回はただ単に『バイオポリティクス』という単語を使いたかっただけという。今まさに『バイオポリティクス』という本を読んでいる真っ最中。こういう倫理的なものを理解するのには時間がかかる。というか、完全な理解は出来ないんだろうなw インフォームド・コンセントはどちらかというと『バイオエシックス』に含まれる分野だけど、まぁ、良いか。ただ色んなとこから批判受けそうで続きは書けそうにないな……。あくまでエンターテイメントとしての作品だとしても、語る内容が倫理的なら叩かれてもおかしくはないからなぁ。

Comment: 6   Trackback: 0

08 01 ,2011  Edit


Back to top


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。