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08

COLDSLEEP

まどるdが趣味でかいた小説をだらしなく垂れ流す場所


In 08 2011

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Category: 小説   Tags: ---

神々の息子達の黄昏 3

 私達はソレンチナメ諸島へと向かっていた。その理由は、今日、ここでサンカルロス要塞の襲撃を敢行するとの事だ。そのため、近くにいた私の部隊が招集されたわけだった。ソレンチナメに着くと既に戦闘が始まっていた。予定時刻よりも速い開始だ。何か、問題でもあったのだろう。私達は草陰に隠れ、作戦を考案。即座に決定し、行動を開始する。ゲリラ軍団に紛れ込み、ナポレオン率いる突撃部隊はサンカロス要塞へと近づいていく。私率いる狙撃部隊は打ち砕かれた民家を壁にして狙撃準備に取り掛かる。
銃弾の雨が降る。血潮の霧雨が戦場に降り注ぎ、地を赤く染めていく。若い命が次々と斃れていき、生き残った者が慟哭しながらトリガーを引きながら弾丸のごとく突貫していく。相棒を構えた瞬間、胸の奥が虚しさで一杯になった。
(何のために、私はここにいるんだろうな)
 私という存在の意義は、まさに今発揮されようとしている。戦いに特化した能力を持つ私がいる事による士気の高揚。戦略上の有利。勝利のための道具。
 壁から出てきた政府軍の一人の頭を撃ちぬいた。糸の切れた人形のように倒れ込み、空いた穴から血と脳漿がこぼれ出ていく。
 私もいつか、今撃ちぬいた奴みたいに斃れる時が来るのだろうか。
トリガーに指をかけ、物陰から逃げまどい出てくる人を撃ちぬいていく。声も聞こえないほどの距離。斃れる人の表情も見えない。その表情が苦悶に満ちているのか、何が起こったのか分からないといった表情なのか、やっと休めるといった表情なのか、私には想像がつかない。
やれる事を、やれ。それが私の信念だ。私の出来る事の全てのはずだ。それなのに、どうしてこうも私は人を撃つ事に抵抗を覚えるのだろう。私の存在意義が存分に発揮されるこの場所で、一体何に疑問を抱くというのだ。
私は必要とされているのだ。だからこそ、私はこうして任務に従属している。道具であるべきだ。私の意志で動けば彼らの意志に反するし、私はこの時代の人間ではないのだから、この時代にシモ・ヘイヘとして生きてはいけない。
なら、私は誰だ。私は何だ。この身体の主は何処だ。私は何故ここにいる? 私の望む事は何だ? 私のいるべき場所はどこだ?
私は何に疑問を抱く? 私がいる事は、時代にとって正しい事か? 私は考えるべきなのか? 私がここにいる事は正しい事なのか? 人工的に作り出された私がここにいる事は正しい事なのか? 
ふと、気付いた時には私は一人だった。周りにいたはずの部隊の人間が誰一人としていない。それだけじゃない。倒したはずの死体も、銃声も、怒声も、半壊した家も、相棒も、何もかもが無くなっていた。在るのは、景色のみ。
無音。荒廃した景色に佇む太陽と、風。立っている感触もなく、私はただ呆然としてその光景を眺めた。ふと、要塞の近くに一つの影が見えた。瞬間、理解した。あれはナポレオンだと。
彼の口元が動く。かなりの距離がある。だから、私には聞こえない、
「もう、時間みたいだ」
 はずなのに、彼の声は私の近くで囁いているかのように鮮明に聞こえてくる。
「何が……」
 と問う。
「お前の時間が」
「私の……?」
 彼は横に首を振り、
「『お前』の、時間さ」
 哀しげな頬笑みを携えて言った。
「『私』の、時間」
 そう、とでも言うように彼は頷いた。ふと気付くと彼はいつの間にやら私の目の前に立っていた。そして、私は彼の顔、右頬にほくろがある事に初めて気づいた。
「俺は、案内役だっただけ。お前が意志を持って動けるか、見ていた監視員さ。実験は成功したよ。もうそろそろ、『お前』の限界だから。終わらせらなきゃならない」
 私は、理由もなく納得いった。一体何に対して、納得したのかは分からないけれども。
「死ぬのか、『私』は」
 静かに彼は頷いた。
「お前は作り出された存在だ。どっかの誰かさんの欲望と希望と、混乱と困惑の中で。この俺でさえも、な。ここだけの話、この世界だってそうさ、全部、ぜーんぶ作りもん。どっかの誰かさんの記憶の一部の残りカス。歴史の一部の張りぼて。縫い合わされたお人形が俺達」
「ナポ――君は、何だい?」
「名前は無いさ。ただ在るだけ」
「俺と同じ……」
「ちっと違うな。俺はお前たちみたいに望まれて生まれた訳じゃない。ああ、名前と言えば、こう呼ばれる時がある。AIって」
 そう、彼は肩を竦めながら言った。私にはその名前の意味するところは分からなかったが、一つだけ分かった事があった。私と同じ、孤独だという事を。
「……君の言った事は本物かい?」
「何……」
「君は私にこう言ったんだ。生きている事は嬉しいけど、殺す事は悲しいって。誰かが称賛をしてくれるのは嬉しいけど、何かが違うって」
「紛いなく、本物。悪いけど、こういう体験は一度や二度じゃない。俺がこの世界の住人になって、お前たちみたいなやつらとつるんで生きるってのは。今までは俺だってそういう事に関して何の関心も持ちやしなかった。俺はただ与えられた命令をこなすだけだったさ。けど、ふと気付いた時に俺は何かを考えていた。お前らが、ただの実験体であるにもかかわらず、生きているように振る舞い、生きていたかのように死んでいく。まぁ、今までと今回の違いは、お前が懐疑を覚えた事だった。今までの奴らは全員、何も疑うことなく死んでいったよ。そうやって死んでいく奴らを見てきた俺はいつの間にか……うん、そうだ。俺も懐疑をしてたんだ。どうしてって。どうして、こんなことをしているんだろうって」
「自分の行いに?」
「いや、実験をする人間に対してさ。所詮、人間にとって俺達は兵器でしかない。だから、こうやってお前を作り出しては壊せる。それって、本当はとてつもない事なんじゃないかって」
「兄弟は、安らかに逝ったのか」
「いや、ほとんどは苦痛の中死んでった。なんせ、脳に負担がかかってたから。最終的には気が狂ったようだった。尋常じゃないんだぜ、このやり方。お前には分からないだろうし、分からなくて良い」
「私は、道具なのか」
「もちろんだ。それ以外、お前の存在の価値は無い。本来在るべき人格を破壊してお前が造られたんだから」
「……教えてくれないか。私は……この身体の主を殺したのか」
 彼は目を閉じた。それが問いに対する答え、肯定である事は一目でわかった。
「……そうか」
 ふと気付くと、目の前から彼は消え失せていた。辺りを見回してみても、荒野に風が寂しそうに歩いていくだけ。
 もう、この世界には誰もいないんだな、と思った瞬間に世界は色を失い始めた。荒廃した地は静かに音もなく、消えていく、時代の背景も、ここの臭いも、私の身体も少しずつ綺麗に真っ白になっていく。何かに溶け込んでいくような感覚に身を浸しながら、それでも私の意識は在り続けた。もう、目の前にあったはずの景色は無く、手も足も、身体さえも失って、見えるのは真っ白な闇。
 いや、違う。闇じゃない。目の前に何かの輪郭が浮かび上がってくる。チューブ、だと理解した瞬間、私は急激な眠気に襲われた。
 手足が重みを増してくる。静かに分解されていくようにして感覚が薄れていく。真っ白な景色が今、真っ暗闇に引きずり込まれようとしていた。でも、私は抗おうとは思わない。むしろ、心地良いからこのまま身を流されるがままにしたいという思いの方が強かった。
 唐突に私は理解した。私はやはり、望んでいたんだと。死ぬことを。だって、こんなにも安心感があるのだから。
 もうどうでもいいのだ。私は色んなわだかまりを捨てて眠ることが出来る。道具はやがて捨てられるべきだ。必要のないものは当然、大切なものでさえも、時間の流れとテクノロジーの発展による風化で。
 私が一体どんな実験に利用されているのかは分からない。それが幸せだとは思わない。この実験が世界に害をもたらすものなら私は死んでも死にきれない。けど、それが分からないからこそ、今の心中は穏やかなのだ。
 全部、消えていく。渦巻く暗闇の奔流が渦をなして景色をのみ込んでいき、やがて私の意識の中にも入り込んできて心を水面に浮かべる。
 全てが消える寸前に、告解とも言うべき感情が光をともした。
 もし、私も天国か地獄に行く事が出来る権利を持つなら、殺してしまった主と共に。




「サンプルD-101、機能を停止しました、博士」
「データを全てチップに」
 真っ白に統一された一つの部屋。そこには様々な機器が備え付けられていて、殺風景な光景に色を飾っている。
 博士と呼ばれた初老の男は席から立ち上がり、ガラス張りの壁へと近づき、そこから見える光景を見降ろした。眼下には広いフロアがあり、そこに、数十人の薄い青の色の患者服を着た人間が横たわっていた。全員が頭を花弁のように切り開かれ、本来頭蓋に収められているはずの脳が露わになっており、さまざまな場所に電極が貼り付けられていて、脳幹部分にジャックが差し込まれていた。
 ドアがノックされ、応答した男から相手の素性を明らかにされた博士は静かに頷いた。ドアが粒子状に消え、半透明となる。そこにパリっとしたスーツを来た男が入り込んで生きた。
「博士、データは」
 淡々とした声音。博士は白衣を着た男からチップを受け取り、それを相手に差し出した。受け取った男はそれを電子グラフィック端末のスロットに差し込んで、引き延ばしたプラグを自分のこめかみにジャックインした。確認が終わったのか、プラグを引き抜いて元の位置に戻し、チップを抜き出した。
「確かに」
そう言って、男は立ち去ろうとした。その時、博士が彼に向って訊いた。
「これは、正義か?」
男は背を向けたまま振り向こうとはしない。やがて、口を開き、
「それは私に問うべき事ではないな、博士。上に言ってくれ」
 そう言って男は壁の向こうへと渡り、認識したセキュリティがドアを元の物質状態へと移行させる。
 博士はため息をひとつついた。その表情は諦めとも悲しみともとれぬ、複雑なものだった。
 そして、博士は小さく、誰にも聞こえないような声で呟いた。
「世も末、か」
 眼下に横たわる人間。機能を停止したD-101。黄昏る様にして開かれた目からは涙が一つ、こぼれていた。


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08 21 ,2011  Edit


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神々の息子達の黄昏 2

「よお、ヘイヘ。気分はどうだ?」
 心地の良い夜風に身を浸していると、風の流れを遮るような声音で男が話しかけてきた。
「なんだ、ナポレオンか」
「なんだ、とはなんだ。せっかく持ってきてやったのに」
 と言うやいなや、手に持っていたリンゴぽいと放り投げた。慌てて僕がそれを受け取る。
「ここら辺のリンゴはまずい。僕の口には合わないんでね。君にやるよ」
 そう言いながら、彼は僕の隣に座った。僕は受け取ったリンゴを、一口かじった。割と硬めだったので歯ごたえがあったが、味はとてもじゅうしーだった。
「……お前は緊張感がないな」
 と言われて、私は口に含んだリンゴを呑み込んで反論した。
「私はいつでも戦える状態だ」
 私はリンゴを放り投げ、肩に立てかけていた愛銃を持ちあげると、相手に付きつけてやった。銃口がリンゴを挟んでこめかみに付きつけられている。私のかじった場所が、ちょうどナポレオンの額の位置にあった。じゅうしーな汁が額から垂れると、ナポレオンが一つ息をつき、挟まれていたりんごをそっと手に取り宙へと放り投げた。私はその重力に反し、ゆっくりと速度を落としつつあるリンゴに銃口を静かに向け、リンゴが与えられたエネルギーと重力がイコールになった瞬間、乾いた音と共に一つの小さな風穴を開けてやった。その小さな穴からの風景は、少しばかり、霞んで見えた。
「お前が本気になったら、俺の頭もりんごみたいに風穴が出来るんだろうな」
「……ああ。痛みも、撃たれたという意識も間に合わないくらいに」
 私は、彼の眼を一瞬たりとも離さずに言ってやった。
「君こそ、私の想像のつかない戦法で心身共に極限にまで疲弊させ、嬲り殺すんだろうな」
「もちろんだ。生きる事が苦痛と思えるくらいに」
 そこに、私達の極限の緊張があった。互いが、互いを殺す事を厭わない。だからこそ、生きながらえた。生きる事と、殺す事の対立という緊張の中、私達を制御する命令系統の仕組みを作り出し、私達にインプットされた。生きる事のできる条件として提示する事で。命令には逆らえない、呪いともいえる束縛がかろうじて私達を繋ぎとめている。制御の成功の暁には人工的な―本当の意味での―人間の生産を可能とした。私達は、どの世界にも属さない存在として、この世界の対立物として生まれる事に、初めて成功したのである。その世界に対立するものとは他でもない――――意味のない、存在である。
 やがて、陽が昇り始める。ここの人たちの目覚めは早い。鳥が今日という日の第一声の頃には既に、人は夢から現実へと身を浸し始めているのだ。もしくは、現実から悪夢へと沈む、といった方が彼らにとっての現実に近いのかもしれない。

時代は覚醒しようとしていた。私はかつての冬戦争を彷彿させる戦場に心なしか高揚しているように思えた。所詮、植え付けられただけの記憶であるのにも関わらず、人を殺すという行為、銃を打つという行為は昔も今も変わらない動きであるから、共鳴しているのだろう。敵を見つけて撃つ。幾度となく繰り返してきた行為。その今と昔の肉体能力が違えど、やる事は変わらない。
土煙りの舞う、小さな村の一角。AKを手にした人達が村を見回り、五十代そこいらだろう、肌の荒れた、大量の水を含んでいるかのように膨らんだ腹の女が忙しく洗濯物を物干し竿にかけていく。鼻歌交じりの揚々さが、まるで彼女だけ違う時代にいて、今が戦時だという事を忘れさせるようだ。
そんななか、僕らは民家の一角を借りて、ボロボロなテーブルの上にどこから手に入れたのかもしれぬ酒と、タバコと銃弾を散乱させ、床に寝そべってまずいガンパウダーを吸っている。
「あー、コカが欲しい」
と、言い出したのはナポレオンだった。抜き取ったガンパウダーを、たばこの紙にくるんで鼻に突っ込む。中身を失った薬莢が放りだされ、カランと音を鳴らして転がった。
「うっ……吐き気がする」
 やめれば、と呆れながらに言うけれど、彼がその姿勢を正すはずもなく、うなだれる様にして急に笑い始めた。気味が悪い。かと思えば、急に立ち上がる。ふらついた足取りで、しかし手ぶりはどこかの気取った政治家のように鷹揚に広げて語り始める。
「重なる暴動。独裁者であるソモサへの反抗。歴史に刻まれる戦い。その中に、俺たちはいる。感動的じゃないか。一つの歴史的な戦いの中に身を置いているってのは。素晴らしいじゃないか。FLSNの部隊の中の『糞食らい』の俺達がな」
 言い終わると同時にしてちらり、とこちらを見る。私は目を背けた。
 言いたい事は分かる。つまるところ、これから糞を食らいに行くということだ。もちろん、ただの糞ではない。
「それが私達の仕事だ」
「分かってるさ。頭の中では」
 その言葉に、私は驚嘆すれども顔には出さず、眼だけを動かしてナポレンを見た。彼はうつろな眼差しで、それでも何かに執着するような光をともし、口には皮肉めいた笑みを浮かばせていた。そして、軽やかな鼻歌の響く窓へと視線を移す。
「俺たちの存在意義はここにある。分かってるのさ、そんな事は。俺が今まで、どんなふうに戦ってきて、どんなふうに人を殺してきたか。英雄とは程遠い、腐臭のする道を延々と歩くだけの死者だってことくらいは。FSLNの中の誰よりも、人殺しに特化しているという事も。目標を殺せば、誰もが沸き立ち、誰もが褒め称え、誰もが戦意を震え上がらせ、誰もが臨んでいく。そんな光景を、俺たちは返り血を浴びたままに見てきた。それは喜ばしい事だと思う。でも、さ。何か、何かが違うような気がするんだ。僕たちは本当にここに必要な存在なのか、時々疑わしくなる。彼らが笑えば笑うほどに、俺には胸が急に重力に引かれて重くなるような気がするんだ」
 そう言って、彼は再び私を見た。私は彼を見なかった。地面に視線を張り付けたまま、彼の言葉を耳にしながら、思いを巡らせていた。
 思えば、私はいつから私が造り物であるということを認識できたのだろう。私が造り物であることを認識するには別の認識の存在が必要となる。そのもう一人の私は、いつから私の中からいなくなってしまったのだろう。
 私は、この宿主とはもっと別の存在であるという事を理解しているつもりだ。別の年代で生き、別の年代で生を全うした個人だったという事を。だから、この私が宿主の中に生まれた時、彼は反抗したはずだ。その反抗の余韻は、今の私の中にはどこにも残っていない。私の中に、この肉体の持ち主である者の記憶が一切ないのだ。
 私を宿主の中に孕ませた、本人の顔さえ覚えていない。どの年代に私は生まれ、今どの年代に生きているのかなどの情報は持っている。しかし、一体誰が誰に私という存在をこの世にもたらしたのかという記憶を、私は持ち合わせていない。
 急に、その事が恐ろしく感じられた。自分はシモ・ヘイヘであり、この時代には生まれていない。もっと別の時代で生まれた存在だ。それについては今まで、何度も理解して自分の中で飲み下してきた『言葉』だ。
 背中に寒気が走る。その『言葉』を、自分を理解しようとすると、恐ろしくてたまらなくなってきた。何か、気がつかなければならない事があるように思える。ともすると、視界が激しく揺れて、ラジオのチャンネルが変わるようにして景色が一瞬にして切り替わり、ノイズ混じりの映像が映し出される。その映像は、あたかも一枚の絵のようにして眼前に広がり、白い壁面に、なぞる様にしてチューブらしきものが視界に映り込んでいた。次の瞬間には景色が霞み、次第に体が闇の中へと落ちる様にして景色は暗闇に満ちた。
 驚く事に、その時にはもう恐怖などなくて、安堵感のなかに身を浸している自分がいる。自分は今、酷く無防備な状態でいると自覚できた。本来の自分なら、それは許されざる状態だ。私達は常に姿を見せないようにしながら行動する。けれども、その中でまれに私達の姿を視認し、どんな姿で、どんな顔なのかという情報を持っているやつらもいる。ここが私達の拠点であっても、私達に油断はあってはならない。それは死を意味する。
 そして、私は再度驚いた。一度死んだ私にも、未だに死というものに恐怖を感じる事に。
ふと、疑問が浮かぶ。私の死に際とは一体、どんなものだったのだろうかと。
「おうい、返事しろヘイヘ。おうい、おういったら」
 心配しているのかしていないのか―おそらく後者―、ともかくナポレオンの呼びかけで、私は忘れ物を思い出したかのようにはっとなった。隣にはナポレオンがこちらをのぞき込むようにして視界に映っている。
 私が大丈夫だ、と言うとナポレオンは「ふうん」と気にしちゃいない、とでも言うように興味をなくした子供のみたいに再び手に握るガンパウダーをいじり始めた。
 右耳に付けているイヤホンにノイズが入り、すぐさま男の声がキンキンと響く。集合の合図だった。
 手に汗を感じた。ゆっくりと開くと、かすかにだが汗がじとりと付いていて、私はさっきまで何かに脅えていた事を思い出す。しかし、その内容がどんなものだったかを思い出す事は出来なかった。

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08 21 ,2011  Edit


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神々の息子達の黄昏  1

そこに横たわっていたのは死体だった。半眼に開かれた目からは、涙がこぼれていた。












 その日の気温は三十度を超え、大地を照らす事に熱心な太陽が雲に隠れて休むことはなかった。
 流れる汗を食い止めるためのバンダナでさえも既にその意味をなくして、汗のたっぷりしみ込んだただの雑巾のようだ。その色は赤黒く染まっており、血の匂いがぷんぷんした。そこから流れる汗でさえ、ほんのりと赤く染まっていて、舐めてみればそれはそれは塩辛くて、鉄の味が口の中で転がった。
抉れた大地に飛び込み、愛銃であるモシン・ナガンM28を構える。スコープもなく、素の姿のままに私に媚びへつらえる愛しい銃である。
硝煙の匂い、血反吐の匂い、焼けた肉の匂い、汗の匂い。その匂いが鼻をつくと、まるで麻薬でもキめたかのように頭の中が痺れる。私の脳みそへ、私の血液へ、私の細胞へと、その匂いは私を犯していく。
パン、という乾いた音が響いたころには、眼前の人間が頭に小さな穴をあけて、崩れ落ちようとしていた。モシン・ナガンの銃口からの硝煙の匂い、無意識的なボルトアクションが、私が撃ったのだという現実を気づかせてくれる。私にとって弾丸の装填音が、擦り切れたレコードの奏でるクラシック的音楽であり、囁きでもあった。空薬莢の地に落ちる音。頭の中に浮かび上がる言葉。出来る限りのことをやれ、と。

自分の意志ではなく。

やれと言われた事を可能な限りやれ、と。


 私が『生まれた』のは、正確には覚えていないが、西暦1964年だったと思う。そこでの生活はとても裕福とは言えなかった。誰かが言っていた、日常というものからはかけ離れていたからだ。その誰かの語る日常というものは、私にとっては夢であり、おとぎ話にすぎなかった。
 お世辞にも、生きている実感がわくとは言えないような、ただ流されるままの生き方が日常だと誰かは主張した。その誰かは、確か、どこぞの正義感あふれる国の人物であって、邪魔だ、という理由で上官がナイフで首を掻っ切って殺していた。元々は捕虜だったのもあるし、情報を得ようとひっ捕らえたのにもかかわらず、何気に情報を口に出さなかったし、口を衝いて出てくる言葉といえば私達への罵倒ではなく分かりあおうという、この場所にはあまりに不釣り合いすぎる綺麗言ばかりだった。
 私たちにとっては、日常というものは銃を持ち、血肉を飛び散らせ、相手を殺すための日々の事を言う。その時だって、私たちにとっては日常茶飯事な光景であり、行為であった。やらなきゃ、やられる、それだけだった。
 1976年、私はサンディニスタ民族解放戦線にて、ある部隊の部隊長を任された。その部隊は特殊の中の異色といわれるほどに、異彩を放っていた。部隊名、『ロイ・イーオス・デ・ヂーオセス』。神々の息子たちと呼ばれる謂われは、私達の存在にある。
 私達という存在は、人から『生み出された物』である。詳しく言えば、私達は発達状態にある子供の脳内から造り出された人格である。物心がつく前から、私達は調教されてきた。お前の名前は『シモ・ヘイヘ』だと。お前はいつも命令に従順で、可能な限りやれる事をやる男だと。映像を見せられ、これは全てお前がやったのだと。人を撃ち殺す場面を幾度となくと見せられ、お前は今、人を撃ち殺したのだと。そして、撃つという事は正しい事であり、己の身を守ることであり、己を証明することであり、相手を敬うことであり、何よりも、やらなくてはならないことだと。
 レコードが擦り切れるまで音楽を垂れ流すように、僕らの頭の中には彼らの言葉がこびれつくほどに垂れ流され、気づいた時には私は『シモ・ヘイヘ』になっていた。
愛銃はモシン・ナガンであり、1939年の冬戦争ではフィンランド国防陸軍第12師団第34連隊第6中隊に配属され、倒すべき敵を倒していったあの人物。
 私という存在は、かつての『シモ・ヘイヘ』の生き写しであり、クローンであり、偽物でもあり、誰でもない存在である。そうだ、私達は人類の交配から生まれた純粋な存在じゃない。作り出されたただの存在。名前も姿もない、誰か。

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08 21 ,2011  Edit


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