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08

COLDSLEEP

まどるdが趣味でかいた小説をだらしなく垂れ流す場所


Category: ネタ   Tags: ---

なーんとなく3

 訊いてくれないか。私の告白を。そうすれば私は幾分か楽になれそうな気がするんだ。気休めだと分かっていても、誰か告白し、誰かに問い、誰かに答えてもらわなければ私は自分のした事への疑問という重圧に押しつぶされてしまう気がするのだ。
これから語るのは、私が生まれた事によって欠損を生じ、私と共に生きた男の物語だ。この物語を見て、貴方の中で何かが芽生える事を祈って。


 と、送られてきた手紙――というか皺くちゃな封筒に入っていた原稿用紙――の初めに、そう書かれていた。差出人の書かれていない封筒が郵便受けに入っていたのはこれが一度ではない。これで四度目だ。その内容はどれも同じで、皺くちゃな封筒の中に原稿用紙が三十枚から四十枚あたり入っていて、中身はなにやら小説のようで物語が描かれていた。私は別に、作家ではないし、そういう職業にも就いていない。私はかつて軍人として生きていた人間であり――軍曹だった――、退役してからは別段変りない生活をしてきた。妻はいるが、子供には恵まれなかったが、それでも幸せな日々を送っている。
 そんな中、封筒が送られてきたのはつい一か月前の事だ。差出人も書かれていない封筒を妻は気味悪がって、警察に届け出た。しかし、警察はなかなか取り合ってくれない。結局、私達はこの封筒を捨てる事にしたのだ。
 捨てようと決めた次の日、妻が外出した後、自室の机に張られていたメモ書きを見る。『引き出し二段目 封筒 捨てる』と書かれていた。そこで、私は二つの事柄を思い出した。一つは自分に記憶障害がある事に。二つ目は、先日、差出人不明の封筒を捨てると妻と決めた事。さっそく引き出しの二段目を開ける。皺くちゃな封筒が、いつもそこにある様にしてあった。皺くちゃが使い古しを思わせ、私が今まで使っていたんじゃないかという感覚に陥る。しかし、記憶――確信はないが――では確かに郵便受けに入っていて、見覚えのない、という感覚を覚えている。私は封筒を手に取り、封を開けた。妻には悪いが、この中身が何なのかが非常に気になったのだ。訝しげなものではあるけれども、どこか放っておけない、人間の好奇心というやつに負けたのだ。
 こうして、私はその封筒を今でも持っている。今、所持いている封筒は四つ。それぞれに送られてきた日付が書き込んであり、どういう経緯で私が所持しているのかという事も書き込まれている。妻には捨てていると言ってはいるが、実際はこうして所持している事に罪悪感はあるが、仕方がない。この物語が非常に興味深かったからだ。文章力はともかく、人を引き付ける何か、共感させる何か、魅力させる何かが詰め込まれているのだ。さらに言えば、軍事物で、私にはなじみ深いものだったからなのかもしれない。
私が若かったころはこんな物語を読んだ事はなかった。むしろ、馬鹿にもしていたほどだ。文章と言えば報告書ばかりで、物語性などは皆無の物。故に、こうしてゆっくりと物語を読むという事は私にとって幸せな事だった。読んでいる物がちゃんとした本だったら尚更よかったのだが。
妻の外出を確認すると、私は再び引き出しの二段目を開け、一番最初の封筒の封を開ける。こうやって、私は暇があれば何度もこの物語を読み返している。今度は、どこだったか、そうそう。第一章からだったか。何度も読み返していながら冷めない好奇心。胸に言葉に形容しがたい興奮と、楽しみが私にページをめくらせた。


 私が彼の中で生まれたのは単なる偶然からだった。私が私であると理解したのは、私が彼という存在を認識した瞬間だった。
 私という存在は、彼の中に存在するもう一人の私である。つまり、彼の中のもう一人の人格という事になる。詳しく言えば、それは間違いではあるのだが。二重人格が主人の現実認識を逸らすための存在であるならば、私は支える立場だからである。彼に現実を認識させるための、媒体なのである。そんな媒体でしかない私が何故、どうやって生まれたかは分からないが、確かにここにいるという事を理解しているし、世界を知覚している。彼が目にしている世界が見えるし、彼が耳にしている言葉も理解できる。
 そして、それを私が自覚した最初の知覚は、『私』がまっさらな清潔感たっぷりのベッドに横たわり、隣りに白衣を着た女医がイスに座っていて、何かを説明をしているところだった。
「フロッグ。落ち着いて聞いてほしい。良いわね? 貴方は、サイバー空間に没入した後、なんらかのトラブルでグレーゾーンに陥った。その際、脳死となったの。緊急蘇生は行って一命は取り留めた。けど、障害が残ってしまったのは君も周知のことでしょう。それで、没入者保護再生法に従い、貴方にナノマシンを注入させてもらったわ。これで障害は軽くなるとは思うんだけど、どう?」
 女は本気で心配してくれいるらしく、『私』――つまりはフロッグという男の手を取って優しく問いかけてくれた。しかし、フロッグは返事をしようとはしない。何かを言おうとして、口を開くけれど言葉が出てこないのだ。そこで、私は思った。それが、彼にとっての障害なのでは、と。それとともに、驚くべき事が起きた。いや、感じたと表現した方が正しいだろう。
 私の中に、別の感覚があったのだ。沸々と言葉が浮かびあがり、膨れ上がって溢れて行く。私はこれが、フロッグの意識なのだと理解した。しかし、彼の言葉は支離滅裂だった。質問に対する答えであるような言葉が形成されない。イメージは出来ているのだ。つまりは肯定か否定かという漠然とした答えはあっても言葉が形成できない。どんな発音だったか、どんな単語だったか、どんな形式だったか。思いを巡らせるも、一向に正しい単語が出てくる事はなかった。
 ――これが、障害。
「これが、障害」
「え?」
 フロッグが目を見開いた。私がはっとした。今のは何だ。私の言葉が、『私』の言葉となった。フロッグの口から発せられた。
「……そ、そうよ。貴方の障害は、運動性失語症。脳死した際、脳の一部が損傷、言語を司ると思われるブローカー野の損傷が疑われていたの。そこに、ナノマシンを注入したのよ。良かった、改善されたのね……一時はどうなるかと――」
 彼女の安堵を余所に、フロッグの視線は彼女には向けられず、足元へと落としたままだった。一体何が、という感覚が私の中に染み込んでいく。自分ではない何かが、声にしたという驚き、恐怖が身に染み込んでいく事だけが分かる。フロッグの中に渦巻く感情は恐怖に塗れていた。今まで味わってきた恐怖とは異なる、理解のできない恐怖。自分の中で何が起こっているか理解できない恐怖が、彼を覆い尽くそうとしていた。
「私は……行くわね。今は安静にして、きっと良くなるから」
 そう言って、彼女は立ち上がり、部屋を出て行く。それを視界の端っこで確認しながら私は私の中に渦巻くフロッグの感情との折り合いをつけようとしていた。
 私は、この身体の中にフロッグと私の意識が存在している事を理解している。しかし、フロッグは理解していない。それが、この感情の差なのだ。フロッグは私に支配される事を恐れている。自分が自分でなくなる事を恐れている。ゆっくりと、確実に自分の中に浸透し、行き渡り、自分という存在が曖昧になり、見覚えのある記憶と見覚えのない記憶が混同し、眠りに就くように、身体的とは対照的な精神の死を恐れている。それが、分かる。私には十分なほどに分かるのだ。フロッグの恐怖は私の恐怖であり、それが文字通り身に染みて感じ取れる。一方通行の流れだ。フロッグの感情は私には流れてきても、私の冷静さはフロッグには伝わらない。
 私はとにかく、フロッグが落ち着く方法を考えた。とにかく、この一方通行をどうにかしなければならない。けれど、もし今私が話しかけたらどうなるのかという結果は見えている。更に混乱を招き、彼を精神的に追い詰める事は明白だ。それ以外の方法で、私の意志を伝えなければならない。そもそも、私がフロッグの身体にコンタクトを送れても、精神に送れるかと訊かれれば私にも分からない。とにかく、フロッグがリラックスしている時に行動を起こさなければ、何をしでかすか分からない。そこで、私は彼が眠った後に行動を起こすことにした。夢の中で、語りかけてみようと考えたのだ。それが出来るかどうかともかく、何か行動しなければ、フロッグは恐怖に押しつぶされてしまう。それだけは避けなければならない。私はこの男になろうとは思わない。なりたいと思っていない。この思いは本物なのだ。それを、彼に伝えなければ。


 深夜、彼が眠った事を私は確認した。どうやら私は眠る事が許されず、こうしてフロッグの眠りを客観的に認識しているところをみると、私の意識はフロッグの脳とは異なる分野での活動なのかもしれない。それにしても、あれだけ恐怖していたというのに、今となっては何事もなかったかのようにすやすやと眠っている。なんというか、この男なら恐怖と上手く付き合っていけるのではないかとも思えるが、それでは私の意志がフロッグと疎通するかが不安になる。それ以上に問題なのは、恐怖になれる事だ。その上で自分を堅く保持するという事は、受け入れるとともに拒否する事だ。異常は異常だと割り切る事だ。そこに、過度のストレスが無いはずがないのだ。その結果、フロッグから生きる希望を奪いかねない。自分と異なる存在が混同するという事はそういう事だ。認めても、受け入れても、それでも自分を保持したいならもう一人を殺すか自分が死ぬかなのだ。自分の半分を奪われる事で生命感が希薄化し、生きる事の意味を深く考える。それが、希望になることなんてほとんどあり得ない。今の状態にくわえて鬱にでもなれば、自殺率が上がってしまう。私はそうなる事が恐ろしくてたまらない。私の生まれた意味を自ら絶ってしまう事が。フロッグが誰にも頼る事が出来ず、未来を見ないうちに命を絶ってしまう事が。
 私はフロッグへと語りかける事にした。彼に伝わる事を信じて。
「フロ……グ」
 と、声がフロッグから漏れる様にしてでた。出来た事と言えばそれだけで、結局私は夢の中へと入り込む事は適わなかった。私はフロッグの中の存在でありながらも、フロッグにはフロッグなりの情報を持ち、私とは違う情報として保有されるらしい。私は次の策を考え、あまりやりたくはなかったが、他人に私の存在を知ってもらい、彼に話してもらおうかと考えた。しかし、驚く事に身体を動かす事が出来なかった。身体を動かす権利はどうやらフロッグにあるらしく、私は混乱した。声を出す筋肉は私の意志または無意識で動かす事が出来るのに、身体を動かす事が出来ない。これでは、私の行動が制限されてしまう。いやそもそも。私は身体の動かし方を知らないじゃないか。私は意識ではあるけれども、生命ではない。それに、私はさっき自分で言葉にしたではないか。活動分野が違うと。私がある分野限定でしか活動できない意識であるならば、他の分野との連携をとれるわけもない。
 私は途方に暮れた。これではフロッグに安全に私の存在を伝えるすべが無いではないか。混乱を招くことなくフロッグに伝える方法はないのか? 私が出来る事は話す事だけだ。それだけだというのなら、フロッグに頼るしかない。しかし、別の意識に自分が乗っ取られる恐怖に耐えられるのか。それだけが不安だ。私はフロッグを死に追いやりたくはない。それだけは絶対だ。私はどうすれば良い……私は。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

何がしたかったかっていうと、例えばゲームで主人公がしゃべらないゲームってあるよね。例えば『聖剣伝説レジェンドオブマナ』とか『エースコンバットシリーズ』とか『アーマードコアシリーズ』とか。ああいうのって、妙に感情移入しない? そんで、凄く感動したりしない? そういったのを文章で出来ないかなって思ったわけ。つまり、主人公じゃない主人公を描いてみたかったんだわさ。っていうか、そういう部分全く書いてないんだけどねww
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Comment: 2   Trackback: 0

08 09 ,2011  Edit


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Comments

なんかミステリアスな流れと世界観で物語に引き込まれました。
導入部からの文章が素晴らしいです^^
そして設定も^^

”私”という存在がとっても魅力的で、彼に感情移入がしやすかったですーー

>>何がしたかったかっていうと、例えばゲームで主人公がしゃべらないゲームってあるよね。例えば『聖剣伝説レジェンドオブマナ』とか『エースコンバットシリーズ』とか『アーマードコアシリーズ』とか。ああいうのって、妙に感情移入しない? そんで、凄く感動したりしない?

たしかにありますね^^
下手に会話しちゃう主人公だと、冷めた目で見ちゃうんですよね(ノ_・、)
あくまでも”彼”であって、ストーリー上の自分ではないから^^
Re: タイトルなし
>月黎風さん
コメントありがとうございます!

最初の展開、まぁ退役したおっちゃんが正体不明の手紙を読んで、引き込まれていく、というのは一人称にするための手段でもありまして。前々からこういう、誰かに自分の主観を語らせる方法を書いてみたくて今回挑戦してみた限りです。

書き終わった後に思ったのですが……主人公しゃべってんじゃん。自分の意思じゃなくても……あうち!

>下手に会話しちゃう主人公だと、冷めた目で見ちゃうんですよね(ノ_・、)
あくまでも”彼”であって、ストーリー上の自分ではないから^^

そうなんですよねー。自分とは合わない主人公だったりするともうねw ムキー!!ってなるんですよねww
だからFPSって良いですよね! 喋んないもんね! 銃で語り合うんだもんね!(訳分からん)

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