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COLDSLEEP

まどるdが趣味でかいた小説をだらしなく垂れ流す場所


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7

 私は顔と腹部を抑えながら自室へと帰ってきた。何故、顔と腹を押さえているのかと言うと、上官殿に殴られたからだ。
二度と生意気な口をきくな、との事。さぞかし、私がNSAの次官へと牙を剥いた事が気に食わなかったのだろう。その時の上官殿の視線も感じていたが、私は見ていなかった。どんな顔をしていたのだろうと想像すると、おかしさがこみ上げてくる。と同時に腹の痛みもこみ上げてくる。
「一種のショーだったな。コメディTVより笑えたぜ、相棒」
 と彼は言う。私はワイヤレスイヤホンを耳に取り付け、シャツに小型マイクを取り付け、そりゃどうも、と呟く。
「さ、聞かせてくれよ。そこら辺に転がってるようなB級ホラー映画よりゾッとするお話をさ」
 彼は陽気な言葉で私の体験談を聞いてくる。いたって平坦な声音だというのに、そこに感情みたいなのを感じる。『彼』という存在故なのか、それとも私がおかしくなったのか。
「仕事を任された」
「へぇ、どんな」
「中国に潜れ、とさ。情報集合体(インフォメーションクラスタ)に仕掛け、ソマリアとの関与を抜き出せって」
「まぁ、そうなるだろうな」
「中国が台頭……覇権国家に為りえるってか」
「覇権国家の一般的な定義は、政治力・経済力・軍事力が覇権的であることが前提だ。中国は政治力には首を傾げるところもあるが、経済力、軍事力には覇権としての顔が現れ始めた。産業革命が彼らの技術力を飛躍的に向上させ、最新とまではいかないものの、確実に技術力をものにしている。その技術力は経済に潤いをもたらし、軍事力に大きな力を持たせた。中でも、国家戦略として眺望してきた芽が生え始めた事が覇権国家への大きな要因になり始めている」
「それがネットワークの技術力……」
「かつての諜報戦はなりを潜め、かわりに高度な情報戦が主な情報収集方法になりつつある。攻めも強くて守りも強く、有利な立ち回りで行動が出来るってなら、その国家は覇権的だろう」
「いつか書面だけの情報が積み上げられる時が来るぞ」
「歴史は繰り返すもんだろ」
 人間臭い言葉に思わず笑い声をあげる。私は缶からタバコ(ピース)を取り出し、マッチを擦って火を点けた。腹の痛みも忘れさせてくれるほどの濃い煙が肺一杯に詰め込まれ、頭の中にニコチンがしみ込んでいく様を感覚しながら吐き出した。
「で、仕事はいつから」
「さっそく。その前に風呂に入りたい」
「よう相棒、そういうもんは、向こうに行く前にするもんじゃないかい?」
「いいさ、このままの方があいつらに香ばしい臭いを届けられたろう。ざまあみろってね。あー上官殿、上官殿」
《なんだ》
 未だに機嫌の悪そうな声音で応答。まぁ、もちろん盗聴していて、今の言葉も聞いているはずだから、憤慨するのも無理もないだろう。でもそのことを告げる事は出来ないので、苛立ちは倍増しているわけだ。ざまあみろ。
「風呂に入りたいんですがね」
《監視員を向かわせる》
 言葉短かに通信切る。ブツッと音共に三秒もしないうちに監視員のご登場。すぐそばで私を監視している事がバレバレである。お早い登場にタバコ(ピース) はまだ半分以上残っていて、監視員に肩を竦めてやったら眉をひそめて私が吸い終わるのを待っていたものだった。ざまあみろ。
 ともあれ、私は監視されながらも―つまりは一緒に風呂場に入ったわけだが―風呂で体についた垢も頭のフケも綺麗さっぱりだ。
「さっぱりしたかい?」
「ああ、表面は、ね」
 頭をタオルで拭きながら、渡された安物のジーンズと真っ白なシャツを着る。まるで八十年代のファッションだなと思いつつ、これまた渡された水のペットボトルを一口飲んだ。缶からタバコ(ピース)を引き抜き、火を点けた。
「さて、相棒。どう仕掛けるよ」
「そうだな……相手は難攻不落、万里の長城の鉄壁の防御がある。普通にやれば何もできないまま終わるか、そのまま見つかって駆逐される。遠回りして、少しずつ近づいて行くのが吉かな」
「どこを経由するよ」
「ありとあらゆる場所」
 彼が黙り込んだ。ともいうのも、私の考えはこの基地におさめられた、あらゆる場所のパスを使って限界まで迂回することにある。それを察して、彼は言葉を失ったのだ。これから自分がとんでもない世界旅行に駆り出されることに。
「久しぶりに旅行にでも出かけてきなよ」
「やれやれ……楽しい旅行にはならなさそうだぜ」
 私はコマンドプロントを起動し、この基地におさめられたあらゆるパスを引き抜き始める。もちろん、こんなやり方も許可はされていないから後でなんて言われるかは分からない。が、もう何でもいい、という感情に私は陥っていた。というのも、アメリカ政府のやり方が気に食わないのだ。どうせ、この件が中国にバレれば、アメリカ政府はこいつがやりました、と言って私をハーグの裁判にかけるだろう。もちろん、裁判では有無を言わせずに死刑であり、私の死によってこの件は有耶無耶にされるのだ。そのための盗聴器、そのための監視カメラである。私と言う存在が今まさに中国へとハッキンングしているという会話、動作を全て記録している。それを証拠として提出し、確定的要素を並べたうえで私の死を持ってこの問題へと踏み込もうとしているのだ。
 自由は犠牲の上に成り立っている。一人の死も、多くの死も、犠牲という言葉で一区切りにされ、生を叫んでも政治と言う波間に呑み込まれてかき消され、私達の意志は潰えていく。誰にも認められる事もなく、まるで自分の国での出来事なのに世界の裏側で起こった小さな事件のようにして消えていく。
 ジョン・F・ケネディが暗殺された。国は騒然となった。
私は国に利用されて殺される。誰も知らない。
どっちが暗殺なのか分からなくて吹き出しそうになった。
 いわゆるスパイスなんだな、と私は思った。カレーに使われる香辛料のように、こうした表だった事の中には刺激的な行動がなければ事態は惹き立てられないのだ。口に入れた時の香りが、私だ。世界という口がこの中国とアメリカの間にそびえる対立をメディア等で形式化(食)べる時、情報戦のほんの微かな得られたデータの一部分に私と言う存在の痕跡が初めて世界中の人間に認識され(香)る時なのだ。
 それも良いか、と私は思う。流れ生まれる文字の羅列の中に自分という存在の痕跡を残すなんて、まるでSFじゃないか。
「目の前に、とんでもないSFがいるんだけどな」
 『彼』という存在が、私だけでなく『彼』自身に何を与えてきたのだろう。現実世界とは異なる世界に生き、別世界を目にして、別世界の生物と会話して、何を思うのだろう。
 人類の歴史が闘争の中にあった。今でさえ、私はアメリカの野心の渦に引きずり込まれて逃げられないままで、中国へとアクセスしている。覇権国家たる所以、政治、経済、軍事力を持ちえた国の、威厳を保とうとするあがきの中で私達は生きている。そんな中で、生まれた『彼』は私と共に静かなる泥沼合戦に身を投じている。『彼』は生まれながらにして、『物』であった。形而上の存在である事を前提に、『物』としての利用価値を全面的に活用されている。その事に『彼』は気づいているだろうし、今もこうしてその利用価値を活用されている。
 ディスプレイにcompleateの文字が並べられる。パスの収得が完了したのだ。
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08 14 ,2011  Edit


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