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COLDSLEEP

まどるdが趣味でかいた小説をだらしなく垂れ流す場所


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8

「……お前は、一体何なんだろうな」
 口を衝いて出た、というのが正しいだろう。私はその言葉を、無意識のうちに口にしていて、『彼』が何、と聞くまで自分が何を言ったのか気づきもしなかったのだから。
「おれぁは俺さ」
 彼は朗々として言う。胸の奥で、激しい衝動が引き起こされた事を私は自覚した。
「違う。違うんだ…………お前はこの世界を、どう思う?」
「おいおい、そいつぁ、俺がこの世界の住人じゃないみたいな言い草じゃあないか。俺だって、相棒と同じ世界に住む存在だぜ?」
「でもお前は、見る世界が違うと言っていた。お前の見る世界は、俺たちの世界の一部分を文字や数字にした世界だ。その場所はきっと、人間の本質のあらわれた場所なんだと思う。隠すべきものが隠され、表わされるものが表わされ、人間の思惑が漂う海のような場所だ」
「ああ、全くそのとおりさ。俺が生まれた時見た景色の話は……話したことあるか?」
「いや」
「そりゃあ綺麗なもんだったさ。俺は『ここにいる』ということ、つまり『ここはどこだ』という言葉が浮かんだ時、おれぁ浜辺に突っ立ってたんだ。目の前には鉛色の海が広がっていて、白波で次々と情報が化学反応を起こしたように析出して橙色結晶として浜辺に打ち上げられていってた。そいつを掬ってやると、綺麗な個人情報が精製されてた。海をよく見てみるとそいつは文字と数字と記号の塊で、硫酸銅色の丘を見てみればそこには書物の資料情報がたくさん敷き詰められてた。空には、何もなかった。真っ暗な闇があっただけさ。果ての無い、どこまでも何かを詰め込む事の出来るような空間さ」
 静かな沈黙が降りた。懐かしいか、と私は訊いた。彼はいいや、と答えた。
「俺に取っちゃそいつはログなのさ、相棒。過去に見た景色を文字化した、俺の過去の遺物なのかもしれないけれど」
 その言葉の意味は、私にとって幼い頃の記憶の在り方と似ていた。私の脳には常に視界からの情報が流れてきていて、それを記述しているはずだ。しかし、時が経つにつれ、記憶は堆積し、重合し、加圧され、次第に記述された形式を失っていく。私達がその記憶を引っ張り出そうにも、崩れた文字は記憶としての機能を果たさないから、幼い自分の映っている写真を見ても、その景色も、撮ったくれた人も、聞いた言葉も思い出せないのだ。
 だが、彼の記述はしっかりと形をなして残っている。それを、懐かしいと思わないのはやはり人工知能(AI)故なのか。
「相棒、とりあえず先進国あたりは一っ飛びしてきたが」
「発展途上のネットワーク普及国を回る。出来るだけ数を稼げ」
 再び、文字と記号と数字の乱列にゲシュタルト崩壊を起こしてもおかしくないディスプレイを眺める。順調に進んでいる事を確認すると、次に情報集合体(インフォメーションクラスタ)へと侵入するためのソフトウェアを起動する。一般的に使われるソフトウェアでも足を踏む出す事は出来る。しかし、そこに埋め込まれる罠を起動させてしまい、作戦の失敗をきたす恐れがある。私はそのソフトウェアに細工を施し、私独自のソフトウェアへと改造する。
 彼曰く、セキュリティとは浮遊する空気なのだそうだ。その空気にはない、他の場所から持ち込まれた物質が入り込む事で侵入を認識するとのこと。人間の血に流れる白血球のように毎日生産され、日々新しい情報を上書きされたセキュリティが中国の核、情報集合体(インフォメーションクラスタ)の周りを巡回しているのだ。
 その空気にどれほど馴染む事が出来るかが問題で、私は中国の情報をありとあらゆる場所から引き抜いてきて、どんなセキュリティが使われ、どこからデータがダウンロードされたかなどを調べ上げた。中国のIPをピックアップ、国のIPと思われる情報をピックアップ、更に細分化した情報を事細かに区別していく。
 ダウンロードされたセキュリティのプログラムに似せた、化けの皮をいくつもかぶせたソフトウェアを作り上げていく。
「ウイルス作成ソフト、か」
 流れゆく記述の中、目についたソフト名がそれだった。ダウンロードしている国は中国や北朝鮮、韓国、ロシア、アメリカ、インドなど、さまざまな国の人間がダウンロードしている。しかし、その大多数は中国や北朝鮮や、情報ネットワークの発展途上にある国だった。
「国の教育状況が手に取る様に分かるな」
 と私は苦笑した。と言うのも、中国や北朝鮮はもちろん、韓国、インドなども情報技術に強い関心を以前から持っていて、八十年代には既に情報技術の教育に力を入れていたという話だ。それは確実に力をつけていき、特に北朝鮮はその実力を、韓国をもって世界に露見させた。
 二〇一〇年代前半はまだアメリカがサイバー戦上では権威を持っていたといえる、しかし、後半は中国や北朝鮮に権威は移っていたといっていい。幾度となくセキュリティの壁を抜けられて、国防総省(ペンタゴン)から機密を引き抜かれるという状況は、アメリカ政府にとっての悩みの種だったはずだ。それも、最新の技術を用いてでのハッキングだったりしたので、アメリカは頭を抱えていたそうだ。
 とはいえ、表向きでのアメリカといえば何事もないかのように力強く自国の将来像について、信念を貫く決意のもとに演説が繰り返されていたものだ。
「これで全部だ」
 彼の声が聞こえた時には、私は既に全ての準備が整っていた。ソフトウェアの改造も、隠ぺいのためのプログラムも、穴を開けるための疑似暗号も。
「荷物は持ったか?」
「ああ。しかし、重いな。割れ物なんて入っていやしないだろうな?」
「割るための物ならどっしりと」
「そりゃあ心強い」
 私達はちょっとした冗談を言い合いながら、高揚しつつある気分を落ち着かせた。一つの失敗が、自分の命と繋がっていると考えるとゾッとしない。
「……始めるか」
「ああ。とっとと終わらせちまおう。うん、それが良い。相棒にとっても、俺にとっても」
「そうだな」
「覚悟は、いいかい?」
「ああ、始めよう」
 私は、いや私達は、情報の海へと身を投げ出し、中国の情報集合体(インフォメーションクラスタ)へと向かう。その場所にたどり着くだけでも二十のセキュリティを通らなければならない。総参謀部第三部までは程遠い。だが、慌てることなく、表情も変えずにただ前に慎重に進むことだけを考えた。
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08 14 ,2011  Edit


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