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COLDSLEEP

まどるdが趣味でかいた小説をだらしなく垂れ流す場所


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試し書き

 結局自分では分からずじまいだ。私は『私』の中にあって、私は『私』の所有物でしかない。でも、それでも良いと思っている。最終的には私は消される予定になっているからだ。私は『私』の中にあるけれども、あるべきではない存在として認知されて消えて行く。それは『私』の話しによると昔からあった事なのだそうだ。一人の中にいくつもの私が生まれるという現象が。そしてその存在の行きつく先は、死か共存のみ。私が『私』になりうる事は決してない。
 それに関してはどうでもいい。私は『私』には決してなろうとは思っていないから。私は『私』を支えるために生まれてきたのだと自覚しているからだ。『私』の中で生じた欠陥を埋めるのが私の役割だし、私はそれについて一切の疑問も憤りも悲しみも無い。それが、私の義務だからだ。『私』がいつも通り、もしくは最低限人間らしく、他人とコミュニケーションをとれるように支える事が私の存在理由。その理由の下で働ける私はどれほど幸せなものなのだろう。ましてや、誰かに私の存在を理解され、受け入れられている私は特に。
 けれど、私は思うのだ。私達という、内側の存在としてでしか生きていけず、誰にも知られぬままに生きていくという事がどれほど悲しい事なのだろうか、と。知られぬままに消えていくという『者』はきっと沢山いる。そんな彼らを私は同じ存在といて見過ごすべきなのだろうかと。しかし、それと同時に暗澹たる思いもわき上がるのだ。私に何が出来るのかと。ただの思考回路が、言葉を生むだけの機械に何を変える事が出来るのかと。
 それがいつだって私の中に渦巻いて凝り、まるで血管を塞ぐようにして苦しませる。焦げ付きのように張り付いてきて、眠るときには隣りで私をいつも見つめている。
 私は答えを出そうとは思わなかった。いや、思いたくなかった。もし、そこで深く考え、答えを見つけ出そうとするなら、そのために私は独自で行動することになるだろう。それは、私の義務から遠ざかる事になる。果たして、それが正しい事なのかと自分自身に問い正せばノーと返ってくる。しかし、答えをほっとくのかと問えば黙り込む、一番厄介なパターンに既に呑み込まれているのだった。
 ふと我に帰った時、私は見慣れた光景とは違う場所にいる事に気がついた。ああ、動いたんだな、と私は理解し、『私』の視界に映るものを確認した。
 どうやら簡易型ベッドボックスで休憩していたらしく、狭苦しいポットの中で人工的に送られてくる心地良い空気の中でどうやら眠っていたらしい。私の器である男――ホルト・ハンスは目が覚めたばかりらしく、眠たげな目を擦りながらポッドのクリアボードを開けた。起き上がると右側に窓があって、味わうように景色が静かに流れていく。明け方の都市の景色は曇りも相まって陰鬱としていて、そこで、ホルトは自分が今から何処に行くのかを思い出した。
 行先はリビアだった。リビアは2011年の騒乱以来、内戦状態にある。カッダーフィ政権派とリビア国民評議会との対立は深く、アメリカやNATOの介入もあって今は膠着状態に落ち着いている。
そんな場所へと向かう理由は、ある一通の手紙から事は始まった。ホルトの所属する通信社に当てに送られてきた封筒の中にそれはあった。手紙――実際は原稿用紙――には社説のような文章が書かれており、その内容は世間では公表されていないような事であった。
 曰く、リビアでの内戦は仕組まれている、との事。何がどう仕組まれているのか、根拠は何なのか、何処からの情報なのかまるっきり分からなかったし、差出人も分からなかったので、その封筒はその日の内に捨てる事となった。それに今、リビアの状況は膠着状態で、まさかその時は誰もその内容が現実味を帯びるとは思わなかったのだ。次の日のトップニュースを見て誰もが目を疑った。いや、いつかは起きる事だとは思ってはいた。しかし、前日に奇妙な文面を目にした人間からしたら、あまりに唐突な展開だったのだ。
 それで興味を持った編集長の命により、ホルトはリビアまで来た、というわけだった。そんな事を思い返す内に目的の駅近くになった事に気付き、急いで相方を起こす事にした。カーテンを開けると、昔の寝台列車のように幾つもカーテンに仕切られた小さな部屋が六つあり、相方はちょうど廊下を挟んだ隣りで寝ている。
 ホルトは脳内ツールを起動し、彼女――クレア・ペトレリへと脳内通信(コール)をかけてみる。起きていれば出るだろうし、でなければそれをアラームにして起こしてやればいい。それから一分ほどして相方は眠たそうな声で脳内通信(コール)に応答した。やけにいらついた口調だったが、彼女が朝に弱い事はホルトにとって周知の事実だったのでどうってことはない。相変わらずの独り言もといホルトへの罵倒が始まったので、脳内通信(コール)を切って少しの合間、流れる景色を見やり、陰鬱な雰囲気を打ち消そうとする太陽の光に目を細めながら服を着替え始めるのだった。


 駅に着いてからはタクシーへと乗り込む事になった。NATO軍の駐屯地に着き、記者証を見せると中に通してくれた。
 あまり時間が無い、との事でホルト達はさっそく現地へと向かう。国土の大半を砂漠が占める国ではあるが、一部の地域は都市化が進んでおり、ここトリポリ――正確には西トリポリは近代化の象徴的なビルが建てられている。独立以前は貧しい農業国だったが、油田の開発が進んで産油国となり、経済の発展を促した。一時的な打撃はあったものの、持ち直してさらなる発展を遂げた国でもあった。その中心であるポリトリはやはり現代的な建物が多く立ち並び、とても内戦が起こっているとは思えない。ホルト達が向かうのはそこから50キロメートルほど離れたザウィヤードという場所だった。NATO軍関係者の話ではそこは重要な場所であり、もっとも戦闘が激化した場所であるという。というのも、そこにはチュニジアと繋がる高速道路があり、外部連絡路と食料補給路を担っていたという。また、石油精製施設もあったため、カッダーフィ派にとって最重要な拠点ともいえたのだ。
 戦闘が起きた場所に着くと、ホルトは目を剥いた。戦闘が残した傷跡は、街をみるも無残な形にしてしまっていたからだった。辺りには多くの血糊がへばり付き、肉塊が至る所に転がっている。誰のものかもわからないような手や足が転がっていたりして、ホルトは無意識に目を細めた。
 ――写真、取らなきゃ。
 そういう考えを無理やりにでも行動に移し、彼は古ゆかしき一眼レフカメラを持ちあげた。
 既に戦闘から一週間が過ぎていた。だが、未だに予断を許さない状況にあるので、軍の人に付いてもらいながらの取材だった。クレアが話を聞き、ホルトが周辺の写真を撮る。カメラが光に反射し、武装集団にスナイパーのスコープと勘違いされないように黒いテープを巻いての活動だった。常に死と隣り合わせの仕事だ。いつも戦闘に巻き込まれる状況下にありながらも、ホルトやクレアは仕事をこなす。私はそんな彼らをみて、いつも思うのだ。何故、危険な中を歩き回り、仕事を行うのかと。
 ホルトは元々、こういった類の仕事をする人間では無かった。元は軍人だ。彼は、米軍のサイバー部隊所属だった。しかし、何らかのトラブルに巻き込まれて障害を持ってしまい、軍から解雇通告を受けた。その病名は超皮質運動失語症だ。読む事も聞いて理解もできるが、自分では言葉を話せないという症状だった。彼は人の言う事は理解できるけれども、発言できない状態にいた。そんな中、没入者災害保護再生法に則り、彼の中に医療ナノマシンを注入される事となる。
 これが私の生まれたルーツなのかは分からないが、私の意識が生まれたのはその頃だ。彼にナノマシンが注入され、初めて目が覚めた時に初めて自分の存在を感じた。そして、私がホルトの感情を理解できる事にも、彼の思いを言葉にできるという事も暫くしてから理解した。私は、彼の言語生成機なのだ。
彼の目を借りて世界の姿を観る事が出来る。彼の耳を借りて世界の音を聞く事が出来る。そんな存在が、私以外にも存在することを知ったのはそれから暫くしてからだった。没入した際の事故で人格が壊れたり、新たに生まれたりする事故が多くなりつつある。没入する際、自分の脳波に見合ったろ過装置(インターフェース)を通して電脳空間の行き来をしているが、そのろ過装置の調子が悪いと事故の発生率が高くなる事が知られている。しかし、ろ過装置は名の通り、ノイズを取り除き、純粋な脳からの情報を受け取り、規格を変えて電脳空間へと送り込む重要な機材だ。それを介して行わなければ危険は増加する事は明白だった。それゆえ、ろ過装置メーカも全力を尽くして開発に取り組んでいるし、点検サービスも充実させている。それでも、この事故は後を絶たない。今までの事故は人の意識が高ければ回避する事は出来た。しかし、意識の届かない範囲での事故、つまり、意識を持たないものの時点で、事故を未然に防ぐのには限界があると言える。
 そんな経緯で軍を解雇されたホルトは当てもなく、貯金を切り崩して生活していた時に彼女に出会ったのだ。クレア・ペトレリはその頃、フリーのジャーナリストだった。その頃からサイバ―部隊に興味があった彼女は密かにホルトに関心を持っていたらしく、彼へと接触してきたのだった。しかし、既にホルトが軍を辞めた事を知ると、少しはコネとかあるだろうとかしつこく軍部への取材を要求してきたが、ホルトが軍を抜けた理由に気がつくと彼女はその手の要求に踏み込む事はなくなった。それどころか、ホルトと共に仕事をしたいと言い出したのだ。彼女の目的が何なのか分からなかったから最初は避けていたけれど、彼女の猛烈なアタックに負けたホルトがOKを出してからは怒涛の毎日だった。
 カメラを渡され、これなら言葉は必要ないでしょ、と勝手に役職を決めつけられたり、今日はこっち、明日はあっちと休む事もなく走り回っては取材をして、どこかのメディアに売りつけては少しの賃金をもらう毎日。さすがにこのままでは生活が危ういとホルトが提言したところ、ある一つの通信社にたどり着いた。そこが、今の就職先だった。主に軍事情報を扱っている会社だ。元軍事関係者であるホルトと、軍事関係、特に最近注目され始めたサイバー部隊についての知識のあるクレアが拒絶されるはずもなく、簡単にその会社に就職できたのだった。とはいえ、世界の紛争の取材を重んじるため、故郷アメリカに滞在する時間が少なかったりするのが、ホルトの唯一の不満だった。
――この内戦は仕組まれている。
 ふと、あの言葉をホルトは思い出していた。彼の中に漠然とした哀愁と畏怖が満ちていき、まるで自分だけがシャッターを切られ、その世界から切り取られたような孤独感が押し寄せてきた。
 シャッターを切る音だけがやけに耳に響いた。それと風の音が穏やかに聞こえてくる。激しい戦闘の終わりを感じさせる状況なのは違いないが、それ以上にホルトに孤独を感じさせるのは一枚絵のようにしてある光景なのだ。
「ホルト、こっちこっち!」
 クレアが呼ぶので、そっちの方へと向かうと遺体を安置している場所へと案内してもらえるとの事だった。このことこそ、ホルトとクレアがここに来た最大の理由だった。
遺体安置所に明りは無く、太陽の光だけがライトの役割であった。大きなテント幕の屋根のした、シーツを被せられ、時が止まったようにして横たわっている。事実、横たわる彼らの時間は止まっており、再び動き出すような事は無い。それでも、何かの拍子で動き出すんじゃないかと思えるような陰鬱な雰囲気は、二人に畏怖と緊張をもたらした。
 軍の人間が、一人のシーツをまくった。横たわる死体の姿に、ホルトは目を剥いた。嫌悪感が膨れ上がり、爆発しそうになった。吐き気が押し寄せ、思わず手で口を塞いでしまう。クレアは口に手を当て、衝撃で言葉を発することなくそこに佇み、目には涙を浮かべていた。
 ホルトにとって、死体は見慣れたものだった。軍に所属していた頃、仲間が戦死し、その葬儀によく出たりしていたから、死体がどんな色をしているのかだったり、どんな風な衣装を着飾ったり、どんな風に横たわっているのかなどを理解していた。だが、目の前の現実は、彼の知識を大幅に覆すものだった。その光景に、これが現実なのだと叩き伏せられたような感覚が身に染み渡った。そして思い至ったのだ。自分は、エンバーミングを施された遺体を見てきたのだと。これが、本物の戦場の死体。
 横一列の遺体のシーツが捲られる。そこには、頭部を持った死体が一つもなかったのだ。首を失った者の中にはおそらく爆発の衝撃で吹き飛んだのであろう痕跡を確認できる。しかし、中にはおかしな傷跡が残っている死体もあった。鋭利な刃物で切り取ったような綺麗な切り株。骨は砕かれているが、肉が切り取られた跡が見受けられる。
 たとえ、全ての遺体にシーツがかぶせられた状態であっても、カメラにその状況を収めようとは到底思えなかった。そんな事で、自分が受けた衝撃を読者に伝えられるとは少しも思えなかったのだ。ホルトはただ見つめた。そして考えた。自分の一部分を失ったその人は、何を思うのだろうかと。
 ――召されまい。
 そう、どこか憤りが滲んだ想いがこみ上げた。
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10 04 ,2011  Edit


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